※本記事には災害時の状況を想起させる内容が含まれます。不安を感じる場合は、無理せず閲覧を中止してください。
本記事は【高齢者の防災対策】に関する3回シリーズの第2回です。本シリーズは、看護師でまちの減災ナース指導者である寺田智美さんに専門的な視点から解説いただきます。
- 第1回:高齢者の防災対策の基礎知識〜迫り来る災害リスクの現状と政府の対応〜
- 第2回:高齢者の防災対策〜「災害関連死」とその原因を学ぶ〜(本記事)
- 第3回:高齢者の防災対策〜事前準備で命を守る【実践編1・2】〜
地震や洪水などの自然災害が発生した際、私たちの関心は「建物の倒壊」や「津波」といった目に見える被害に向けられがちです。
しかし、近年の大規模災害において、直接的な被害を免れたはずの人々が、その後の避難生活の中で命を落とす「災害関連死」が深刻な問題となっています。なぜ、助かったはずの命が失われてしまうのか。その実態と、特にリスクの高い高齢者の現状について解説します。
1. 日本政府の高齢者に対する防災対策は?
高齢者の死亡が多い災害関連死
災害での死亡者は、「直接死」と「災害関連死」に分かれます。「直接死」とは、災害が原因で死亡したことを言います。その原因は、建物の下敷きになる圧死、津波や洪水被害による溺死、火事による焼死などが多いです。
一方、「災害関連死」とは、災害による直接的な原因ではなく、災害によって受けた精神的ショックや災害後の厳しい避難生活による感染症、持病の悪化等、「間接的な原因」による死亡を指します。この言葉は、阪神・淡路大震災の際に注目されるようになりました。
2. 増え続ける「災害関連死」:近年の震災に見る割合
過去の3つの大規模地震の被害者の比較によると、過去の災害関連死は、災害による全死者数の2割程度でした。しかし、平成28年の熊本地震は82%、令和6年の能登半島地震では約64%と、災害によって直接亡くなった人よりも災害関連死の割合が高い傾向があります。
年代的には、70歳以上の高齢者の死亡者が8割を占めています(内閣府, 2023)。災害関連死の6〜8割は発災から3か月以内に集中していますが、1年以上経過した後に発生するケースもあり、その影響は長期にわたります(内閣府, 2023)。
何が命を奪うのか?事例集から見える主要な死因
内閣府は、2011年から2021年までに発生した災害で災害関連死をされた方のご遺族202人の同意を得て、事例集を作成しています。これは、関連死をされた方やそのご家族への対応を迅速化することを目的としたものです。
この事例集によれば、災害関連死のおもな原因は以下の通りです。
- 被災生活の肉体的、精神的負担(被災のショックも含む)
- 電気・ガス・水道が途絶えることによる肉体的、精神的負担
また、熊本地震においては、以下の要因が全体の約9割を占めました。
- 地震のショックや余震への恐怖による肉体的・精神的負担
- 避難所生活の肉体的・精神提負担
- 医療機関の機能停止(転院を含む)による初期治療の遅れ、および持病の悪化や病気の発症
【震災別データ】避難所・自宅・施設における発生場所の傾向
災害関連死の発生場所については、地域や震災ごとに以下の傾向がみられます。
東日本大震災(岩手県、宮城県)
- 自宅または親せき宅:31%
- 病院:26%
- 施設:約17%
- 避難所:12%
熊本地震
- 自宅または親せき宅:約41%
- 病院:39%
- 施設:9%
- 避難所:約5%
熊本地震では、自宅や親せき宅、および病院での死亡が多い傾向にあり、その死因は呼吸器や循環器疾患が6割を占めています(内閣府, 2023b)。

能登半島地震
NHK(NHK NEWS, 2025©)が県の資料や遺族への取材で得たデータ(321人の災害関連死)の分析によると、亡くなった人の9割以上が70歳以上の高齢者であり、死因の6割を循環器疾患や呼吸器疾患が占めていました。
能登半島地震における調査の結果、体調が悪化したおもな場所は以下の通りです。
- 介護施設:38%
- 自宅または親せき宅:31%
- 避難所:30%
- 別の病院への移動中:14%
- 車中泊:10%
また、災害関連死に至った具体的な理由として、以下の要因が挙げられています。
- インフラの停止:電気が止まり痰(たん)の吸引ができない、暖房が使用できない
- ケアの不足:人材不足により十分な介護が受けられない
- 想定外の事故:スプリンクラーが誤作動し、水を浴びたが着替えがない
- 移動による負担:別の施設へ移動するため、道路事情の悪い中での長時間移動による衰弱
各災害の被害者の比較
| 災害名 | 死者数 | 災害関連死数(死者全体に占める割合) |
|---|---|---|
| 東日本大震災 | 15,900人 | 3,808人(約24%) |
| 熊本地震 | 278人 | 228人(82%) |
| 能登半島地震 | 636人 | 408人(約64%) |
災害関連死のメカニズム:ストレスと環境が悪循環を招く
では、災害関連死はどのようにして発生するのでしょうか。上田耕蔵医師 (2017)は、災害関連死の発生の仕組みを以下のように解説しています。
災害による精神的なショックと環境によるストレスから、飲水を制限したり、体を動かさなくなることで動けなくなる、あるいは薬の紛失や残薬不足で服薬を中断してしまうことがあります。
これらが原因で交感神経の緊張や脱水を招き、血圧上昇や血液の粘度が高まることから心筋梗塞や脳梗塞などにつながります。また、動かないことで足の血液の流れが滞り、血液の塊(血栓)が肺に飛び、血管をふさいで肺梗塞が起きます(エコノミー症候群)。
それらの疾患のことを「災害関連疾患」と言い、これらの病気により亡くなることが災害関連死に該当します。
3. 救済のための制度:災害弔慰金の定義と支給額
災害関連死は、災害弔慰金法に基づき、審査委員会が災害弔慰金の支給対象と認定した方を、災害関連死者と定義しています。
災害弔慰金は、自然災害により直接死および災害関連死した住民の遺族に対して支給されます。
- 生計を担っていた方:500万円
- それ以外の方:250万円
高齢者の命を守るために知っておくべき「災害関連死」まとめ
今回の記事では、近年の大規模災害で急増している「災害関連死」の実態と、その発生メカニズムについて解説しました。
特に犠牲者の約8割から9割を高齢者が占めている現状を踏まえ、避難所のみならず自宅や施設における生活環境の悪化が、命に直結する重大なリスクであることを正しく理解することが、被害を防ぐ第一歩となります。
次回の記事では、「シリーズ第3回:高齢者の防災対策〜事前準備で命を守る【実践編】」について、寺田先生に詳しく解説していただきます。ぜひご期待ください。
SONOSAKI LIFEでは、健康づくりに役立つ情報や介護の「お悩み」に寄り添う情報をお届けしております。ほかのコラムもぜひ、ご覧ください。





【まちの減災ナースとは】
災害看護の専門知識を持つ看護職が、地域住民の防災力を高めるために活動します。高齢者や要配慮者を含む住民に対し、平時からの防災意識の向上、避難支援、災害時の健康管理指導を行い、地域全体の減災体制の確立を目指す役割を担っています。