在宅生活の中で、「食べる」ことは生活の楽しみのひとつになります。
ただ、高齢になると、さまざまな原因で「食べる」こと自体が難しくなることがあり、「食べる」ことが日々の楽しみではなく、誤嚥性肺炎や窒息のリスクになってしまうことがあります。
昨今、誤嚥性肺炎や窒息を予防するための方法は、インターネットや動画、メディアで紹介される機会が多くなりましたので、ここでは視点を変えて、そもそも「食べる」ために必要なことを中心に「食べる」ことを紹介していきます。
「食べる」には何が必要?
早速ですが、誰しもが行う「食べる」こと。この「食べる」ことは、私たちは当たり前に行っていますが、実は「食べる」ためには、身体のいろいろな機能や能力を使っています。「食べる」ために必要なことをひとつずつ確認していきましょう。
「食べる」ための体力
「食べる」のに体力が必要?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この体力は高齢者の食事を語るのに、欠かせない要素になります。
基本的に食事の平均時間は大人で30分~1時間くらいと言われています(注:この場合の食事は、会話などを挟まないで食事のみを行った時の時間です)。
30分未満で済ますこともできますが、その場合は早食いや消化不良、満腹感を得られないことにつながりかねないので、食事として満足して「食べる」時間の平均として捉えていただくと良いと思われます。
この30分~1時間の食事ですが、食事は唯一といっても言い過ぎではないくらい、私たちが行う、歩く・話すなどと違い、休憩することが難しい活動です。
いったん休憩を挟んでしまうと、身体が消化作業に入ってしまうため、満腹感や食欲が落ち着いてしまい、「食べる」を続けることが難しくなってしまい、十分な栄養を摂る前に、活動を止める、もしくは止めたくなってしまいます。
そのため、この30分~1時間という時間、ずっと「食べる」ことを続ける体力があるかどうかが極めて重要になります。もし、その体力がない場合は、「食べる」を続けられる時間はどのくらいかを確認し、その中で必要な栄養量を補うための方法を検討していきます。
この時に、安易に体力がないから運動をしよう!と、運動をしてしまうと、身体の負担を高めて、余計に体力を落とす原因となるので、まずは栄養を摂って体力をつけることを優先します。
「食べる」ときの姿勢
次に重要なのが姿勢です。この姿勢でのポイントは2つありますが、1つ目は、楽な姿勢であること。2つ目は、ムセられる姿勢であること。この2つをどちらとも満たす必要があります。
- 楽な姿勢
楽な姿勢とキレイな姿勢は違います。キレイな姿勢であっても、身体に負担のかかる姿勢は、余計な力みや体力消耗を招き、本来の「食べる」ことが完了する前に苦痛や疲労になってしまいます。
キレイな姿勢は大切ですが、食事の時だけキレイな姿勢を作るのではなく、日ごろからキレイな姿勢を保てる練習を行って、腕の運動やムセなどがあっても、その姿勢を保てるくらいの余力を持つことが大切です。 - ムセられる姿勢
高齢者でなくても、ひょんなことから食べ物が本来と異なる場所に入ってしまい、大きくムセることがあります。この、ムセられることが大変重要です。
ムセることで、私たちは食べ物が本来入ってはいけないところに入っても、出す(防御する)ことができます。しかし、背中や肩が丸まっていたり、お腹も潰れているような姿勢では、ムセたくても、ムセるだけの空気の量の確保や、腹筋を使うことができません。万が一、変な場所に食べ物が入っても、十分にムセられるだけの胸の広がりや腹筋を使える姿勢の確保が必要になります。
通常は、いすに座って「食べる」ことが多いですが、先ほどの体力の消耗が大きい場合は、いすにこだわらず、楽な姿勢を探すことが必要です。先ほどの体力であったように、その姿勢で30分~1時間の食事時間を過ごす必要があるので、力みや窮屈さのない楽かつ胸の広がった姿勢を考える必要があります。
「食べる」ときの呼吸
続いて呼吸です。息を吸って吐く単純なことのように思われますが、呼吸は「食べる」上で大変重要です。特に、在宅で暮らす中で、徐々に「食べる」のが難しくなる方の場合は、この呼吸の2つのポイントが大切です。
呼吸のポイントの1つ目は、ムセられるほどの息の量が吸えるか。2つ目は、「食べる」タイミングで息を止められるかです。この2つは姿勢と同様に、どちらも満たしている必要があり、これらを満たしていないと、「食べる」ことがリスクになる可能性が高くなります。
姿勢の箇所でもお伝えしたように、ムセずに「食べる」ことが大切ですが、万一のことを考えた時に、適切にムセられることは大変重要です。ムセるためには、いくら姿勢が良くても、そもそもムセるために必要な息の量が十分に吸えなければなりません。
呼吸に問題がある。といった時に、一般的にはゼーゼーといった、呼吸音が荒くなるイメージがありますが、高齢者で「食べる」ことが難しい方の中には、呼吸音が弱く、一度にたくさんの空気を吸えない状態になっている方々をよく見かけます。このような状態の方は、一見すると何もサインがないように見えますが、実は観察や周りの人に症状の確認をすると、下記のような症状が見られる場合があります。
下記の症状が見られた場合は、呼吸量が十分に確保出来ていない場合があり、ムセたくても十分に力を発揮できない場合があるので、安全に食べられる食事を考える必要があります。加えて、少ない酸素で生活しているので、身体が常に頑張っている状態で、栄養を摂っていっても、痩せてしまう場合があります。
下記の症状が見られていて、体重が減っている場合は、速やかに医療機関や専門家に相談しましょう。
呼吸量が十分に確保できていない場合の行動例
- 夜間、十分に寝ているのに、昼も眠ってしまう
- 夜間、十分に寝ているのに、生あくびが多い
- 入浴や自室からの移動、トイレなどの軽い動作時に息が上がる、または首に力が入り、首が筋張る
「食べる」タイミングで息を止められるか。というのは、ほとんど無意識的に行っているため、なかなかコントロールするのは難しいのですが、それでも、呼吸が意識的に止められる=コントロールできるというのは重要です。
私たちにとって、空気と食べ物は生きるために欠かせません。そのどちらもが、口という同じ場所を通ります。口から入った空気は気道に入り、食べ物は食道に入ります。この、食べ物が食道に入るときに、私たちは息を止めて、空気の道である気道を閉鎖して、食べ物が食道に入る道を開放します。息を適切に止められないということは、空気の道に食べ物を通してしまう可能性が高くなり、「食べる」時のリスクをあげてしまいます。
「食べる」時に常に意識して行うのは難しいですが、例えば、日々の練習として、
- 息を思いっきり吐いて
- たくさん吸う
- しっかりと1~2秒止めて
- 再度思いっきり吐く
のように、コントロールする練習を行うと良いでしょう。
「食べる」ために必要な認知能力
最後に、認知能力です。認知能力は、全ての行動の源ですので、もちろん「食べる」ことにも影響を与えます。目の前のものを「食べる」ときに、どのような食具(スプーンや箸など)を使うか、集中して食事ができるか、目の前のものを口に入れて良いものかどうか、口に入れるための口の大きさや形はどうか、口に入れた食べ物は何回噛めば飲み込める大きさになるのか。など、これらは、ほんの一例ですが、全て認知能力が行っていることです。
テレビを見ながら食事をする方も多いとは思いますが、食事ではなく画面に集中してしまうようなら、「食べる」時は、見るのを止めましょう。
また、「食べる」は口に入れるより、もっとから始まっています。見て、嗅いで、温度を感じて…食事が単なる栄養摂取にならないように心がけましょう。
在宅高齢者が「食べる」ために必要なポイント|まとめ
さて、ここまで一気にご紹介しましたが、「食べる」ことは、飲み込み以外にもたくさんの力や能力を使っていて、意外と大変なことが伝わったなら、とてもうれしいです。
日々を暮らす上で、目に見える大きな病気がなくても、高齢者(特に要介護認定を受けていて、多くの介護を受けている方)の場合は、徐々に「食べる」のが難しくなることがあります。多くの場合は、飲み込む力も低下しているのですが、それ以上に、今回ご紹介した体力や姿勢などの「食べる」ために必要な全体的な力が低下していることが少なくありません。
食べられなくなってから始めるのではなく、食べられるうちから、日々の暮らしの中で積極的に動いて体力と体の柔軟性をもち、いろいろな情報や人に触れて、認知能力を使う機会を無理のない範囲で意識し、日々の食事の楽しさにつなげていただけると嬉しいです。
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