近年、日本では大雨や台風といった気象災害が激しくなり、また大きな地震が起きる可能性も高まっています。
本記事では、この現状を知るため、最近の災害の傾向と、それに対する日本政府の取り組みを解説します。国や自治体の対策を知ることは、ご自身の命を守るための防災行動の第一歩となります。
※以下は過去の災害時の被害状況を示した画像です。不安を感じた場合は、読み進めずに休憩してください。
1. 近年どのような災害が発生しているのでしょうか?
※画像はイメージです(再現写真)
気候変動による気象災害の激甚化や、切迫する巨大地震のリスクなど、私たちを取り巻く環境は大きく変化しています。まずは、データに基づいた災害の現状と、将来予測されるリスクについて整理します。
これまでとは異なる災害の規模や被害、回数の増加
2024年は、高温、低温、多雨、少雨の異常気象が発生し、寒波、大雨、台風、森林火災といった気象災害が発生しました。(気象庁, 2024a)
多くの場合、これらは地球規模の自然現象ですが、そこに地球の温暖化現象による気温上昇が重なることにより、災害の規模や被害の増大、回数の増加につながっています。
2024年(令和6年)世界の主な異常気象・気象災害
気候の変化と将来の災害のリスク
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大気中の温室効果ガスの増加が、地表面の気温を上昇させ、異常気象を引き起こします。これは、猛暑日の増加、大雨の集中化、台風の強度増加、そして海面上昇など、日本における将来の災害リスクを増大させています。
猛暑日と集中豪雨の増加
大気中の温室効果ガスの増加により、地表面の気温が上昇しています。その結果、日中の気温が35度になる猛暑日が増えています。また、気温上昇に伴い、大気中の水蒸気が増えて雨となることで、短期間に集中的に降る大雨の回数と勢いが増しており、強い雨の降る日は、1980年代の2倍に達しています。(気象庁, 2024b)
降雪量・積雪量の変化
気温が上昇し雨の日が増えたことで、全体的な降雪量や積雪量は相対的に減少しています。しかし、その一方で、一部の山間地域では、大雪による積雪量が増加するという傾向も見られます。
台風の強度増加と高潮リスク
地表に蓄積された熱の90%は海に取り込まれ、海水温度を上昇させています。その結果、海面上の水蒸気が増え、これをエネルギー源として台風の強度が増す可能性があります。さらに、海水温度の上昇と膨張、および氷河等が溶けることにより海面が上昇し、台風による高潮・高波・浸水のリスクが高まっています。
海洋の酸性化
人の営みにより発生した二酸化炭素の40%は海に排出されており、海の中で炭酸となって海の成分が酸性に傾き、海中の生態系に影響を与えています。気候変動と大気・海洋の諸要素の変化
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発生する確率の高い巨大地震とその被害の予測
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【海洋型地震と直下型地震がおこる仕組み】
地震は、大きく海溝型地震と直下型地震(文部科学省, 2004)に分類されます。
▼ 海溝型地震のメカニズム
海溝型地震がおこる仕組み
海溝とトラフ
海溝とは、細長い溝形の海底の地形で、水深6,000メートル以上のものを指し、それよりも幅が広く水深が浅いものをトラフと言います。
海溝型地震は、プレートの境界で発生します。
- 陸のプレートの下に海洋プレートが沈み込む際(その境界が海溝やトラフ)、陸のプレートも引きずり込まれて歪みが生じます。
- この歪みが限界に達し、プレートがもとに戻ろうと跳ね上がった際に巨大地震が発生し、地面が大きく揺れます。
- この海底の地形の変動が海洋に伝わり、津波が発生します。
主な海溝型地震には、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、相模トラフ付近の地震があります。
▼ 直下型地震のメカニズム
直下型地震が起こる仕組み (活断層に発生するタイプ)
直下型地震は、内陸部の地中で発生する地震です。
- 陸のプレートに海洋プレートが沈み込んだ際に、内陸部の地中のプレートの弱い部分が破壊されて、局地的に激しい地震が発生します。
- 海溝型地震と比較して規模は小さいものの、地震の範囲が20〜30キロメートルと限定されるため、震源付近での被害が大きいという特徴があります。
- タイプは、地表面(活断層)に発生するものと、地中の岩盤が破砕されるものの2種類があります。
主な直下型地震には、中部圏・近畿圏直下地震と関東近辺の首都直下地震があります。
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切迫した巨大地震とその被害想定
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現在、特に高い確率で発生が予測されている巨大地震は以下の通りです。
| 地震名 |
規模(マグニチュード) |
今後30年以内の発生確率 |
| 南海トラフ沿いの大規模地震 |
M8〜M9クラス |
80%(気象庁地震火山部, 2025) |
| M7クラスの首都直下地震 |
M7クラス |
70%(東京都防災会議, 2022) |
| 千島海溝で発生する巨大地震 |
M8.8以上 |
7%〜40%(地震調査研究推進本部, 2025) |
※中部圏・近畿圏直下地震は、現在地震対策検討会で検討中であり、発生確率については公表されていません。
中央防災会議が対象としている大規模地震
※発生確率・切迫性が高い、経済・社会への影響が大きいなどの観点から対象とする地震を選定
南海トラフ巨大地震の被害想定
最も切迫した対策が求められる南海トラフ巨大地震では、以下の甚大な被害が想定されています。
- 想定震度と津波:静岡県から宮崎県までの沿岸域の一部で震度7、神奈川県〜鹿児島県の太平洋側の沿岸地域で震度6弱以上となり、1メートル〜34メートルの津波が発生すると想定されています。
- 広範囲な影響: 震度6弱以上または津波の高さが3メートル以上となる市町村は、31都府県764市町村に及びます。これは日本の国土面積の約3割、全人口の約5割を占める広範囲な影響です。
- 被害推定(最悪の場合)
- 死者数:約30万人
- 全壊焼失棟数:235万棟
- 避難者数(最大):約1230万人
- 経済活動への影響:45.4兆円(南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ, 2025)
その他の地震への備えの重要性
令和7年12月8日に発生した北海道・三陸沖の地震については、今後の巨大地震への注意が必要です。
東日本大震災では、マグニチュード(M)7.3の先発地震から2日後に、M9.0の本震が発生し甚大な被害が出ました。この教訓を踏まえ、今回も大規模な地震が続く可能性が高まったとして、地震翌日の12月9日、政府と気象庁は初めて「北海道・三陸沖後発地震発生注意情報」を発表。事前の防災対策を徹底し、被害を抑えるよう国民に注意を呼びかけました。
令和7年12月16日、地震発生から1週間が経過し、特別な注意喚起の期間は終了しました。しかし、今後も前触れのない巨大地震が発生する可能性は否定できません。
過去の事例では、マグニチュード(M)7.0以上の地震後、1週間以内にM8クラス以上の巨大地震が続く確率は「100回に1回程度」とされています。そのため政府は、引き続き地震に注意しつつ、通常の生活を送るよう呼びかけています(内閣府・気象庁, 2025)。
日本海溝・千島海溝沿いでは、今後30年以内にM7クラスの地震が発生する確率は7〜40%と推計されており、これは極めて高い水準にあると報告されています。
発生確率の高い地震以外についても注意が必要です。
例えば、平成28年に発生した熊本地震は、当時、今後30年以内のM7クラスの地震の発生確率は0〜0.9%と低いとされていました(地震調査研究推進本部, 2013)。しかし、実際には大地震が発生しました。
このように、全国の地震発生確率が低い地域であっても大地震が発生する可能性はあり、どの地域においても事前に十分な備えをしておくことが必要です。
▼ 南海トラフ地震の震度の最大値の分布
南海トラフ地震の津波の高さ(満潮時[智寺18.1])
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2.日本政府は災害に対してどのように対応しているのか?
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国は過去の災害から教訓を得て、法制度の改正や防災体制の強化を重ねてきました。ここでは、被災者支援に関する主要な法律と、南海トラフ地震や首都直下地震に向けた政府の具体的な対策目標について解説します。
災害に関する法律を改正した対応
日本政府は、災害が発生するたびに、被害の実態把握と原因追及、災害対応の評価と課題を明らかにして法律を改正し、災害対応を改善してきました。
主要な災害に関する法律
- 災害対策基本法
- 国や国民の生命、財産を災害から保護することを目的とし、国、都道府県、市町村、公共団体、国民の責任と義務や防災計画、災害時緊急支援、財政措置について定めています。(内閣府, 2025)
- 災害救助法
- 災害が発生した時、または発生する恐れが極めて高い時に適用されます。この法律は、国が地方公共団体、日本赤十字社、その他の団体、そして国民の協力のもとに、応急的な救護と被災者の保護を行うことを定めています。
具体的には、以下の救助活動や費用負担について定めています。
応急的な救護:
- 医療活動、被害者の救出
- 避難所および応急仮設住宅の設置
- 炊き出しや支援物資の支給
- 福祉サービスの提供
- 被災住宅の応急修理
災害救助法は、救護費用の国と地方の負担についても定めています。
- 災害弔慰金の支給などに関する法律(災害弔慰金法)
- 災害により死亡した遺族への弔慰金、障害を受けた人への見舞金、被害を受けた世帯主への災害援護資金の貸付について定めています。(内閣府, 2021a)
- 被災者生活再建支援法
- 自然災害により、著しい被害(住宅の全壊、大規模・中規模半壊)を受けた被災者
に対して、被災者生活再建支援金を給付し、住宅の再建と被災者の生活の安定、被災地の速やかな復興を目的としています。(内閣府, 2020)
これまでの災害経験に基づく対応の改善
- 阪神・淡路大震災後:DMAT【緊急医療チーム】の発足、広域災害への対応、災害拠点病院の指定、救急医療情報システムの構築がなされました。
- 東日本大震災後:避難所および避難所以外に滞在する被災者への薬や医療の提供、避難所の生活環境の整備、避難行動要支援者名簿の作成と活用が開始されました。
※この時期、災害対応の管轄が厚生労働省から内閣府へ変更されました。
- その後の災害の経験から:避難行動要支援者が避難できるように個別避難計画の作成と訓練の実施が推進されるようになりました。
- 能登半島地震後(2025年以降の主な取り組み)
- 2025年に、防災・災害時の指揮命令系統をつかさどる防災監を内閣府へ新設。
- 地域防災力の強化のために各都道府県に職員を配置。
- 災害発生後、福祉サービスの提供、広域避難のための情報提供の強化。
- 被災者支援団体、支援車両の事前登録制度の創立。
- 防災備蓄の公表の義務化、防災情報のデジタル化、下水道復旧の迅速化、宅地の耐震化に取り組んでいます。(川合宏一, 2025)
日本政府の地震災害への対策
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1. 南海トラフ巨大地震への対策
内閣府では、前回の検討から10年が経過しているため、南海トラフ巨大地震対策検討グループを設置し、南海トラフ地震の被害想定やその対策について検討を行いました。
その結果、以下の対策を行うことで、死亡者数が約8割減少、全壊焼失件数が約5割まで減少すると想定しています。(内閣府 防災担当, 2025)
対策例
- 住宅の耐震化を現在の90%から100%
- 家具などの転倒防止を約36%から100%
- 感震ブレーカーの設置率を100%にする
- 津波に対する早期避難の徹底
- 既存の津波施設に加え、新規に津波施設の指定・整備
- その他の防災対策
被害を減らすための具体的な対策(5つの柱)
- 津波発生時の避難行動の周知徹底、防災教育の充実等、社会全体に防災意識を高めること。
- インフラ、ライフライン、建物の強靭化、耐震対策、早期復旧の促進による被害量の減少。
- 避難所で専門職を派遣する等、被災者の生活環境を整えること。
- 防災庁が防災支援団体や支援車両の事前登録制度を開始することによる災害支援の効率化、高度化。
- 時間差で発生する地震に備えて対応できるように強化すること。
南海トラフ地震の人的被害や物理的被害を軽減するために必要な対策の組み合わせの一例
※1 地震動:陸側、津波ケース①(東海地方が大きく被災するケース)、冬・深夜、風速8メートル/秒
※2 今後の避難施設の指定及び整備については、過去の実績の推移をもとに想定
※3 おおむね8割のうち、約6割は津波からの早期避難意識の向上により達成することを目指す
※4 地震動:陸側、津波ケース⑤(九州地方が大きく被災するケース)、冬・夕方、風速8m/秒
2. 首都直下地震への対策
東京都でも被害想定の見直しを行いました(東京都防災会議,
2022)。M7クラスの都心南部直下地震を想定した場合、防災対策が進んだ結果、建物被害は約19万棟(平成25年想定の約61万棟から減少)、死者最大約6千人(平成25年想定の約2.3万人から減少)といずれも減少していますが、避難者約300万人、帰宅困難者は約450万人と多数の避難者が発生することが想定されています。
東京都では、今後の10年間の減災の達成目標を死者数、建物の被害を半減させることとしました。
東京都が推進する主な対策
- 首都機能の確保と多大な人的・物的被害への対応とし、ライフライン、インフラ、住宅、公共施設の耐震化と早期復旧の充実。
- 住民による家具の固定、感震ブレーカーの設置等の防災対策の実施推進。
これらの防災対策を行うことで、人的・物的被害を8〜9割減少させることができると予想されており、災害の発生前に国、各都道府県、国民の総力戦で防災対策を行うことが重要です。
東京における被害想定(都心南部直下地震)
防災・減災対策による被害軽減効果(冬・夕方/風速8メートル/秒)
防災・減災対策による被害軽減効果(冬・夕方/風速8メートル/秒)
まとめ|災害リスクの現状と日本政府の対応
今回の記事では、地球温暖化や巨大地震など、日本を取り巻く災害リスクの現状と、それに対する政府の法制度や具体的な対策について解説しました。特に高齢者が被害を受けやすい状況を踏まえ、国や自治体だけでなく、私たち一人ひとりが防災対策の当事者として備えることが、被害を最小限に抑える鍵となります。
次回の記事では、「シリーズ第2回:高齢者の防災対策〜災害関連死とその原因を学ぶ」について、寺田先生に詳しく解説していただきます。ぜひご期待ください。