
高齢になると皮膚の抵抗力が弱まり、カビの一種である真菌が原因で起こる「白癬(はくせん)」や「カンジダ症」といった皮膚の感染症にかかりやすくなります。これらの感染症は、放置すると症状が悪化し、他の健康問題を引き起こす可能性もあるため、早めの発見と適切な治療が大切です。
この記事では、白癬とカンジダ症の原因から治療法、そして予防法まで、分かりやすく解説します。
白癬(はくせん)とは? ―いわゆる「水虫」のこと

白癬は、一般的に「水虫」として知られている皮膚や爪の真菌感染症です。白癬菌という種類のカビが、皮膚の表面にある角質層(かくしつそう)で増殖し、かゆみや赤みといった症状を引き起こします。特に高齢者の方は、免疫力の低下や皮膚の乾燥などにより、白癬にかかりやすく、治りにくい傾向があります。
白癬の原因:なぜかかるの?
白癬は、主に皮膚の角質層に潜む白癬菌という皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)が原因で発症します。この白癬菌は、湿度や温度が高い環境を好んで繁殖します。
感染経路としては、人から人への直接的な皮膚接触のほか、家庭内や公衆浴場などでタオルやスリッパ、足ふきマットなどを共用することでも感染が広がります。衛生管理が予防には非常に重要です。
【白癬菌が好む場所・環境】
- 好発部位: 足の指の間、足の裏、爪の周りなど、汗をかきやすく蒸れやすい場所
- 環境要因: 長時間靴を履くことによる足の蒸れ、通気性の悪い靴や靴下の使用
- 生活習慣: 共有のスリッパやタオルの使用、公衆浴場やジムなどでの裸足での歩行
特に高齢者の方は、皮膚の構造が変化し、免疫機能が低下することで、一度感染すると治りにくくなります。そのため、タオルや衣類などの肌に直接触れるものは、共有しないようにしましょう。
【高齢者特有の要因】
- 皮膚の乾燥によるバリア機能の低下
- 加齢に伴う免疫力の低下
- 糖尿病などの慢性疾患による感染への抵抗力の低下
- 爪の変形や厚みの増加により、菌が爪に定着しやすくなる
これらの要因が複雑に絡み合うことで、白癬菌が皮膚に定着しやすくなり、感染が起こりやすくなります。
白癬の症状:どんなサインが出る?
白癬の主な症状は、皮膚の赤み、かゆみ、そして皮むけです。
【白癬の症状】
- 初期症状: 比較的軽度のかゆみ
- 進行時の症状: 皮膚が白くふやけたり、ジュクジュクしたり、ひび割れたりする
- 爪への感染(爪白癬:つめはくせん): 爪が厚くなる、白や黄色に濁る、ボロボロと崩れる
放置すると症状が悪化し、感染範囲も広がるため、早期の治療が非常に大切です。
手にもうつる?「手白癬(てはくせん)」について
手白癬とは、その名の通り、手の皮膚に白癬菌が感染して起こるものです。高齢者の方は、水仕事や介護などで手を頻繁に使う場合、発症しやすくなることがあります。
【手白癬の主な症状】
手の指の間や手のひらに、かゆみ、赤み、乾燥、ひび割れなどが現れる。
【手白癬の主な原因】
- 水に触れる機会が多い
- 手に汗をかきやすい
- 足白癬(水虫)にかかっており、足を触った手で他の場所を掻くなどして感染が広がる
手白癬の治療は、足白癬の治療と同時に行うことが重要です。手を清潔に保ち、保湿を心がけるとともに、疑わしい症状が見られた場合は、皮膚科を受診し、抗真菌薬による適切な治療を受けましょう。
カンジダ症とは? ―皮膚や口の中に起こるカビのトラブル

カンジダ症は、カンジダ菌という真菌(カビの一種)が原因で起こる感染症です。免疫力が低下した方、特に高齢者の方によく見られます。
カンジダ菌は、健康な人の皮膚や口の中、消化管などにも普段から存在する常在菌(じょうざいきん)の一種です。しかし、皮膚の蒸れや摩擦、あるいは免疫力の低下などをきっかけに異常に増殖すると、カンジダ症を発症します。カンジダ菌は湿った場所を好むため、わきの下、陰部、乳房の下、体のしわの間などに発生しやすいのが特徴です。また、口の中に発症する「口腔カンジダ症」は、口のケアが不十分な場合にリスクが高まります。
高齢者の方は、皮膚や口腔内のバリア機能や免疫力が弱まっていることが多いため、日頃からの適切なケアが予防につながります。
カンジダ症の原因:なぜかかるの?
カンジダ症は、カンジダ菌が過剰に増殖することが原因で発症します。
【カンジダ菌が増殖しやすくなる要因】
- 抵抗力の低下: 加齢、病気(糖尿病など)、ステロイド薬や免疫抑制剤などの薬の副作用
- 湿った環境:汗や尿で蒸れやすい部分(わきの下、陰部、乳房の下、おむつ着用部位、体のしわの間など)
- 口腔内: 唾液の減少や不衛生な状態
これらの条件が揃うとカンジダ菌が増殖しやすくなるため、体を清潔に保ち、湿気を避けることが予防において重要です。
カンジダ症の症状:どんなサインが出る?
カンジダ症による症状は、主に蒸れやすい部分に現れます。
【皮膚の症状】
- 赤み、ただれ、じゅくじゅくとした状態、皮むけ、カサカサとした乾燥
- 小さな赤いブツブツや水ぶくれができることもあり、かゆみやヒリヒリとした痛みを伴うことが多い
- 好発部位: わきの下、陰部、乳房の下、お腹のしわ、おむつで覆われる部分
【口腔の症状(口腔カンジダ症)】
- 舌や頬の内側などに、白い苔(こけ)のようなものが付着する(こすっても取れにくいのが特徴)
- 食べ物がしみたり、味覚がおかしく感じられたり、ヒリヒリとした痛みが出たりすることがある
【爪や指の症状】
- 爪の周りが赤く腫れたり、爪が変形したりすることがある
- 水仕事が多い方では、指の間にカサつきや赤みが出ることがある
皮膚や口の中に何らかの異常を感じた場合は、早めに症状を確認し、医療機関で適切な治療を受けることが大切です。
高齢者に多い真菌感染症の特徴

高齢者の方に多く見られる真菌感染症には、いくつかの特徴があります。主な要因は、加齢による免疫力の低下です。これにより、細菌や真菌(カビ)に対する体の抵抗力が弱まってしまいます。例えば、白癬(水虫)やカンジダ症といった真菌感染症は、皮膚のバリア機能が低下している高齢者の方に発症しやすい傾向があります。加えて、皮膚の乾燥や血行不良は、感染した部位の治りを遅らせ、症状が長引く原因にもなります。
感染症は、一度発症すると症状が軽くても悪化しやすいため、高齢者の方は早めに適切な治療を受けることが必要です。感染症の兆候を見逃さないためにも、定期的な皮膚のチェックや、高齢者施設などでは専門医による診察を受けることが推奨されます。
感染症の診断方法:どうやって調べるの?

真菌感染症の治療では、原因となっている菌の種類を特定し、それに合った適切な治療を行うことが重要です。そのため、専門的な検査が必要になります。
- 顕微鏡検査: 症状が出ている部分の皮膚や爪の表面を少しだけこすり取ってサンプルを採取し、顕微鏡を使って真菌(カビ)がいるかどうかを直接確認します。
- ダーモスコピー検査: ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて、皮膚や爪の状態をより詳しく観察します。
これらの検査結果に基づいて、原因となっている菌の種類に合った抗真菌薬を選びます。高齢者の方の場合、他の皮膚病との区別が難しいこともあるため、正確な診断が効果的な治療の鍵となります。
予防と日常ケアのポイント:どうすれば防げる?

白癬(水虫)やカンジダ症といった真菌感染症を予防するためには、日常からの丁寧なケアが非常に大切です。特に高齢者の方は、皮膚の乾燥や免疫力の低下が見られることが多いため、体を清潔に保つことを常に心がけるのが効果的です。
【清潔を保つ】
入浴時には、皮膚が重なり合う部分(指の間、わきの下、股など)を丁寧に洗いましょう。
汗をかいたら、こまめに拭き取るか、可能であれば着替えるようにしましょう。
下着や衣類は通気性の良い素材のものを選び、こまめに洗濯して清潔なものを身につけましょう。
【乾燥を心がける】
入浴後は、水分をよく拭き取り、特に指の間や体のしわの部分は念入りに乾燥させましょう。
靴は毎日同じものを履き続けず、何足かをローテーションして乾燥させるようにしましょう。
【共有物を避ける】
バスマット、スリッパ、タオルなどは個人専用にし、家族間でも共用は避けましょう。
【皮膚の保湿】
保湿剤を適切に使用し、皮膚の乾燥を防ぎ、バリア機能を保ちましょう。
【爪のケア】
爪は短く清潔に保ち、爪の色や形などに異常がないか日頃からチェックしましょう。
【口腔ケア(カンジダ症予防)】
毎食後や就寝前には、丁寧に歯磨きやうがいをしましょう。
入れ歯を使用している場合は、毎日ていねいにお手入れしてください。
これらのケアを日常的に続けることで、真菌感染症にかかるリスクを効果的に減らすことができます。
「白癬(水虫)」と「カンジダ症」まとめ
高齢になると、皮膚の抵抗力が弱まるため、「カビ」の一種である真菌が原因となる白癬(水虫)やカンジダ症にかかりやすくなります。これらの感染症は、かゆみなどの不快な症状を引き起こすだけでなく、放置してしまうと治療が長引き、生活の質を大きく損ねてしまいます。
皮膚を清潔に保ち、乾燥した状態を維持すること、そして皮膚に何らかの異常を感じたら早めに皮膚科を受診することが、感染の予防と重症化を防ぐために非常に重要です。特に高齢者施設などでは、集団生活の中で感染が広がりやすいため、日常的なケアと衛生管理の徹底が求められます。
この記事が、皆さまの皮膚の健康を守るための理解を深め、日々の健康管理にお役立ていただければ幸いです。