自宅内の急激な温度変化によって血圧が大きく変動することで、血圧サージ(血圧の乱高下)やヒートショックを引き起こすことがあります。特に、ヒートショックは、失神や不整脈、重篤な場合には心筋梗塞や脳卒中を引き起こす可能性があり、命に関わる危険があります。
冬場に血圧が上昇する主な理由は、寒さから体温を逃がさないようにするための体の生理反応にあります。寒さを感じると、体は熱を保持するために血管を収縮させます。血管が狭くなると、血液が流れにくくなるため、心臓は血液を送り出すためにより大きな力が必要となり、その結果、血圧が上昇してしまうのです。
こうした血圧変化は誰にでも起こる可能性があり、特に高齢者の場合はそのリスクが高まります。一方で、ヒートショックや血圧急変は、日々の生活環境を整えることで未然に防ぐことが可能です。このコラムでは、血圧サージやヒートショックの危険性、家庭で簡単にできる寒暖差リスクの具体的な予防策を解説します。
冬に急増する「血圧サージ」と「ヒートショック」の危険性
冬になると、外気温と室温の差などによって「血圧サージ」や「ヒートショック」といった血圧に関するさまざまな症状が現れ、ときには命を失う高齢者もいます。ここでは、高齢者が健康で冬を過ごすために、血圧サージとヒートショックの原因や危険性について解説します。
寒暖差が引き起こす血圧の急変
血圧は、運動や精神状態、時間帯などさまざまな要因で変動します。しかし、冬場は寒暖差によって血圧が急激に大きく変動することがあります。この一時的な血圧の急上昇は「血圧サージ」と呼ばれ、血管に大きな負担をかけます。
冬の日常生活の中で、血圧が急変しやすい状況には、次のようなことが挙げられます。
- 起床直後:寒い朝、布団から出た瞬間の急な温度変化によって血圧が急上昇する
- 入浴時:暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動したときに血圧が急上昇し、温かい湯船に浸かると血圧が急低下する
- トイレ:冷え込みや排便時のりきみにより血圧が上がり、排便後は血圧が急低下する
また、血圧サージは、心臓や脳の血管に大きな負担をかけます。その結果、脳内出血、脳梗塞、心筋梗塞などの重大な血管疾患を引き起こす引き金になることがあります。
ヒートショックのメカニズムと注意すべきサイン
ヒートショックとは、暖かい場所から寒い場所への移動など、温度の急激な変化が身体に与えるショックのことです。ヒートショックが起こるメカニズムは、前述した血圧の急激な上下変動にあります。
例えば、入浴時、寒い脱衣所や浴室で血管が収縮して血圧が上がった状態から、湯船に浸かって体が温まると血管が広がり、血圧が急激に低下します。この血圧の急激な変化が、心臓や血管に強いストレスを与えヒートショックを引き起こしてしまいます。
ヒートショックは、急激な血圧の変化により、一時的に脳の血流が減少することで生じるため、その症状にはさまざまなものが挙げられます。
注意すべき初期症状には、めまいや立ちくらみ、ふらつき、吐き気、頭痛、倦怠感、動悸などがあります。入浴中にこれらの症状を感じた場合、軽いヒートショックの状態であると考えてよいでしょう。
重篤な場合には、失神や意識障害が起こり、浴槽内で意識障害が生じた場合は、そのまま倒れて溺死につながる危険性があります。夏場の入浴時にはなかった異変を感じた場合は、入浴を中断するなどして二次被害を避けましょう。
【場所別】家庭でできる寒暖差リスクの予防策
ヒートショック予防の基本は、急な温度変化を避けることです。一般的に、リビングとその他の部屋との温度差が10℃以上あると、ヒートショックのリスクが高まります。家の中の温度差をできるだけ小さくすることを心がけ、寒暖差リスクをしっかりと予防しましょう。
浴室・脱衣所の寒さ対策
入浴時はヒートショックが最も起きやすい状況のため、脱衣所や浴室の寒暖差対策は重要です。
脱衣所や浴室の寒暖差対策の基本は、温めることです。入浴前に、脱衣所や浴室を暖房器具で温め、温度差を小さくしましょう。専用の暖房がない場合は、シャワーを使って高い位置から湯を注ぎ蒸気で浴室全体を暖めたり、浴槽のふたを開けておいたりすることも有効です。
ただし、熱すぎるお湯(42℃以上)は血圧の急激な変動を引き起こし、心臓に負担をかけてしまいます。湯温は41℃以下、できれば38℃〜40℃程度のぬるめのお湯に設定し、ゆっくり浸かるのが安全です。
また、飲酒後の入浴は、アルコールと入浴の二重の作用で血圧が大きく下がり、危険な状態となりやすいので避けるようにしましょう。食後すぐの入浴も、消化器官に血液が集まり血圧が下がりやすくなるため、食後1時間は空けて入浴することが望ましいです。
トイレ・寝室の工夫
トイレは、浴室と同様に暖房器具がない場合が多く、急激な温度差が生じやすい場所です。暖房器具や暖房便座などを活用し、トイレ内を暖かくしましょう。また、早朝の血圧上昇(モーニングサージ)を防ぐため、寝室の温度管理も大切です。室温は18℃以上を目安に、温かい環境を保ちましょう。
早朝の寒い時間帯は血圧が急上昇しやすいため、朝は布団からすぐ起きたりせず、布団の中で少しずつ体を動かすなど、ゆっくりと動くことが大切です。夜間にトイレに行く際も、ゆっくりと動くことを意識しましょう。
冬の「隠れ脱水」と水分補給の重要性
冬は夏場よりも喉の渇きを実感しにくいため、高齢者ほど水分補給をする頻度が少なくなり、隠れ脱水に陥っていることがあります。冬の脱水は寒暖差と同じように血圧への影響が大きいため、水分補給の重要性を理解し、こまめに水分補給を行うようにしましょう。
暖房による乾燥と血圧への影響
冬場は暖房の使用により空気が乾燥し、意識しないうちに体内の水分が失われがちです。体内の水分が不足した脱水状態になると、血液中の水分が減少し、血液が濃くなります。
血液が濃くなると、血栓ができやすくなり、血液の粘度が高まることで血流が悪化し、血圧上昇の原因となってしまいます。この状態で血圧が変動すると、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まるため、気づかない隠れ脱水状態は危険です。
水分補給のタイミングとおすすめ飲み物
脱水症状を防ぎ、血液の流れを良くするためには、こまめな水分補給が不可欠です。特に高齢者は喉の渇きを感じにくくなっているため、意識的に水分を摂りましょう。
特に、水分補給が必要なのは、起床時、入浴前、入浴後、就寝前です。これらのタイミングには、コップ一杯程度の水を飲む習慣をつけましょう。また、水分補給のときは、体を冷やさないよう、冷たい飲み物は避け、体を温める白湯や温かいお茶などを選ぶ工夫も大切です。
まとめ|寒暖差を減らす工夫が命を守る
冬の血圧サージやヒートショックは、自宅内の寒暖差で生じる症状で、命を落とす危険も伴います。日々の意識と対策によって予防し、健康管理を徹底することが大切です。
血圧サージやヒートショックの予防で最も重要なポイントは、家の中の温度差をなるべく減らすことです。脱衣所や浴室、トイレなど、暖房がないために冷え込みやすい場所を温める工夫を行い、暖かい部屋と寒い部屋の急激な移動を避けましょう。
そして、部屋ごとの寒暖差対策に加えて、毎日の血圧測定を習慣化し、自分の健康状態を客観的にチェックしましょう。特に、朝起きたときのめまいやふらつきが続く、入浴中に意識を失ったことがある場合などは、ヒートショックが起きている可能性があるため、早めに医師へ相談することをおすすめします。
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