
夜中に何度も目が覚めてトイレに行く。日中もトイレの心配がつきまとう。そんな状況を「これも歳のせいだから仕方ない」と諦めていませんか? また、「トイレの回数が増えるから」と水分摂取を控えてしまい、かえって体調を崩してしまうケースも少なくありません。
夜間頻尿は単なる加齢現象だけでなく、様々な要因が絡み合って起こります。その原因を正しく理解し、適切な対策を講じることで、多くの場合で改善できる可能性があります。
この記事では、夜間頻尿に悩む高齢者ご本人や介護をするご家族が、安心して快適な毎日を送るためのヒントをお届けします。
「なぜ?」を知るのが改善への第一歩:夜間頻尿の主な原因

夜間頻尿を改善するには、まずその原因を知ることが大切です。この症状は、一見すると同じように見えても、その背景にはいくつかの異なる要因が隠されています。
1. 加齢にともなう身体の自然な変化
年齢を重ねるにつれて、私たちの体には様々な変化が起こります。これらの変化が、夜間頻尿の原因となることがあります。
過活動膀胱
膀胱が過敏になり、少し尿がたまっただけでも強い尿意を感じてしまう状態です。高齢者に多く見られます。夜間も同様に尿意を感じやすくなるため、夜間頻尿の一因となります。
ホルモンの影響
女性ホルモンの減少が、尿道の閉まりや骨盤底筋の機能に影響を与えることがあります。男性では前立腺肥大症が尿路を圧迫し、頻尿や排尿困難を引き起こすことがあり、夜間に症状が顕著になることもあります。
骨盤底筋の衰え
膀胱や尿道を支える骨盤底筋群が緩むことで、尿漏れや頻尿につながることがあります。この影響が夜間にも現れることがあります。
2. 隠れた病気や服用中の薬の影響
夜間頻尿は、加齢による変化だけでなく、体の奥に隠れた病気が原因となっていることもあります。また、現在服用している薬が影響している可能性もゼロではありません。もし気になる症状があれば、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。
生活習慣病
糖尿病や高血圧など、特定の病気が夜間頻尿を含む頻尿を引き起こすことがあります。特に糖尿病は、多尿(尿量の増加)や多飲(喉の渇きを強く感じ、大量に水を飲む状態)の原因となりやすく、夜間にも影響が出やすいです。
心疾患や腎疾患
心臓や腎臓の機能が低下すると、日中に水分が体内にたまりやすくなり、夜間横になった際にその水分が尿として排出されやすくなることがあります。これが夜間多尿の主要な原因となることがあります。
薬の副作用
服用している薬(例:利尿剤など)が尿量を増やし、夜間頻尿につながるケースもあります。気になる場合は医師や薬剤師に相談しましょう。
3. 日々の水分摂取を見直す
毎日、体に必要な量の水分を摂ることは、私たちの体の状態を整えるために欠かせません。しかし、何気なく続けている水分の摂り方が、実は夜間頻尿の原因になっている可能性もあります。ここでは、特に注意したい水分摂取のポイントを見ていきましょう。
就寝前の過剰な水分摂取
寝る直前に大量の水分を摂ると、夜間の尿量が増える傾向があります。ただし、夏場は汗などで体内の水分が失われやすいため、寝る前に適度な水分補給を心がけることも、健康を保つうえで大切です。
アルコールやカフェインの摂取
これらには利尿作用があり、特に夜間の摂取は夜間頻尿を悪化させる可能性があります。特にアルコールは抗利尿ホルモンの分泌を抑えることで、摂取した量以上の水分が排泄されることがあり、体が脱水状態になることもあるため注意が必要です。
日中の水分不足
高齢者は、体内の水分が不足しやすいため、尿が濃縮され、膀胱への刺激が増すことがあります。また、体内の水分不足は血液循環を悪化させ、日中に下半身に水分がたまり、夜間に排出される「夜間多尿」の原因にもなります。
4. 「気にしすぎ」が招く心理的な要因
不安や心配
「また夜中にトイレに起きたらどうしよう」「外出先でトイレに行きたくなったら困る」といった不安や心配が、頻繁にトイレに行く習慣や尿意の過敏さにつながることがあります。これが夜間の過剰な意識につながることもあります。
5. 日中の活動量低下も夜間頻尿の原因に
私たちの体では、腎臓が血液中の老廃物をろ過して尿を生成しています。尿の生成は腎臓への血流量に密接に関係します。
日中は立ったり座ったりすることで重力が下半身にかかり、血液が下半身に滞りやすくなります(浮腫み:むくみ)。このため、腎臓へ送られる血液量が相対的に減少し、昼間の尿量は抑えられがちになります。
一方、夜間、横になって寝ると、重力の影響が軽減され、下半身に溜まっていた血液が心臓に戻り、全身へと効率的に循環します。その結果、腎臓への血流量が増え、夜間に多くの尿が生成されるようになります。
特に要介護状態になると、日中の身体活動が減少しがちです。その影響で血液や水分の循環に変化が生じ、夜間に尿が多く作られる「夜間多尿」が起こりやすくなると考えられています。
今日から実践!夜間頻尿改善のための具体的な対策

夜間頻尿は複数の原因が絡み合うため、複合的なアプローチが有効です。今日からできる具体的な対策を見ていきましょう。
ステップ 1:まずはご自身の身体と向き合う「排尿日誌」
排尿日誌(排尿日記)は、ご自身の排尿パターンや水分摂取量を客観的に把握するための、非常に有効なツールです。
【記録ポイント】
- 水分を摂った時間と量
- 排尿した時間と量(可能であれば目盛り付きの容器で測定。難しい場合は「少量」「中量」「多量」といった目安でも構いません)
- 尿意の強さ(例:「少し尿意を感じた」「我慢できない」など)
- 尿漏れの有無
- 日中の活動(ウォーキングや体操、買い物に行ったなど)
- 睡眠時間と夜間の排尿回数
【記録の目的】
数日間記録することで、ご自身の夜間頻尿パターン(例:寝る前に何を飲んだか、日中の活動量との関連性など)や、生活習慣との関連性が見えてきます。必要であれば医療機関に持参することで、より的確な診断やアドバイスにつながります。
ステップ 2:生活のリズムを整える
身体の自然なリズムを整えることが、夜間頻尿改善につながります。
【意識したいポイント】
・日中の活動量を増やす
血液循環を促し、昼間のうちにしっかり排尿できるよう、ウォーキングや軽い体操など、日中に体を動かす習慣を積極的に取り入れましょう。これにより、下半身に溜まりがちな血液が心臓に戻りやすくなり、夜間の尿量を減らす効果が期待できます。
・適切な水分摂取
トイレが心配だからと水分を控えるのはやめましょう。日中にこまめに、必要な量(1 日1,500ml が目安)の水分を摂ることで、血液循環が良くなり、体内の老廃物が効率的に排出されます。特に夜間の水分摂取は控えめにし、日中に十分摂るように意識しましょう。
※猛暑の時期は寝る前にコップ1杯の水分摂取が推奨される場合もあります。
・食事の工夫
塩分や糖分を摂りすぎないよう心がけましょう。また、カフェインやアルコールは利尿作用があるため、特に夕方以降の摂取は控えることが望ましいです。
・規則正しい睡眠
質の良い睡眠は、自律神経のバランスを整え、夜間頻尿の改善に寄与します。日中の活動量を増やすことで、夜間の良質な睡眠につながります。
ステップ 3:自信を取り戻すためのトレーニング
ご自身で取り組める簡単なトレーニングで、排尿機能をサポートできます。
膀胱トレーニング
尿意を感じても、すぐにトイレに行かずに少しだけ我慢する時間を延ばしていく練習です。徐々に膀胱にためられる尿量を増やし、尿意に対する過敏さを軽減することを目的とします。無理のない範囲で、徐々に時間を伸ばしていきましょう。
骨盤底筋体操
尿漏れや頻尿の予防・改善に有効な体操です。尿道を締めたり緩めたりする動きを繰り返すことで、骨盤底筋群を強化します。専門家による指導を受けるとより効果的です。
ステップ 4:安心して過ごせる環境づくり
夜間頻尿の不安を軽減し、快適な生活を送るための環境を整えましょう。
【環境設定のポイント】
- 寝室からトイレまでの動線を確保し、障害物を取り除く。
- 夜間は足元を明るくする(常夜灯など)。
- 必要に応じてポータブルトイレや尿器の導入を検討する。
- 排泄補助具(尿取りパッドなど)を適切に活用し、失敗への不安を軽減する。
一人で悩まず、専門家への相談を
夜間頻尿はデリケートな問題であり、一人で抱え込みがちですが、決して珍しいことではありません。不安や悩みを感じたら泌尿器科や老年内科などの医療機関を受診しましょう。隠れた病気が原因である場合もありますし、適切な診断と治療、生活指導を受けることで、症状が大きく改善する可能性があります。
また、介護保険サービスを利用している場合は、ケアマネージャーに相談することで、専門的なアドバイスや、必要なサービスの紹介を受けることができます。一人で悩まず、専門家のサポートを積極的に活用しましょう。
高齢者のつらい夜間頻尿は改善できる|まとめ
高齢者の夜間頻尿は、日中の水分摂取や活動量の不足、身体の変化、そして心理的な要因など、様々な要素が複雑に絡み合って生じます。
原因を正しく理解し、「日中に十分な水分を摂り、体を動かす」といった生活習慣の見直しに加え、排尿日誌の活用や飲み物の工夫、医療機関での相談などを組み合わせることで、症状改善の可能性が高まります。夜間のトイレ回数が数回減るだけでも、睡眠の質が向上し、ご本人はもちろん、ご家族の心身の負担も大きく軽減されます。
諦めずに、今日からできることを少しずつ実践し、快適で活動的な毎日を取り戻しましょう。