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杖・介護杖の選び方|理学療法士がていねいに解説

ご高齢の方向けの杖は、介護用品店に行かなければ手に入らない時代がありましたが、 最近はホームセンターや通販、さらには100円ショップでも杖が買えるほど、気軽に入手できるものになっています。

一方で、杖のことをよく知らないまま購入している方も多いのでないでしょうか。
身体に合っていない杖や、誤った杖の使い方をしていると、転倒の危険性が高まったり、身体の一部に痛みが出たりします。
この記事では、理学療法士が「これから杖を買おうとしている方」や「今使っている杖を見直したい方」に役立つ情報をお伝えしていきます。

 

【介助を楽に】杖・介護杖の選び方|理学療法士がていねいに解説

【必見!】杖を選ぶための基礎知識

初めて杖を選ぶ方は、「杖にはどんな種類があるの?」 「杖を使うとどんなメリットがあるの?」といった疑問もあるかと思います。杖を選ぶ前にこれらの疑問を解決しておけば、断然選びやすくなるでしょう。
ここでは、高齢の方の体を支える杖を選ぶ上でおさえておきたいことを、ていねいに解説していきます。



杖の構造

初めに、杖の構造について簡単に解説します。
杖の構造は、一般的にグリップ(持ち手)・シャフト(支柱)・杖先に分けられます。
T字杖

1)グリップ

最近は、単に棒状のものではなく、握りやすいように手の形に合わせたグリップ(以下、機能的グリップ)がスタンダードになっています。

2)シャフト

①シャフトのタイプ
伸縮できないもの・伸縮できるもの・折りたたみができるものの、大きく3タイプに分けられます。

伸縮できないもの

シャフトが一本の棒になっているもので、強度が高く耐久性が高いことが特徴です。
ただし、長さを調節する場合、シャフトをカットする必要があります。そして、カットした後は、その長さから伸ばすことができません。

伸縮できるもの

シャフトの長さが調節できるようになっている杖です。2本のシャフトが重なっていて、ボタン等で長さを調節することができます。
強度は伸縮できないものと比べると劣りますが、歩行するのに十分な強度は確保されています。また、気軽に長さを調節できるのがメリットです。
例えば、杖の長さを一度調節しても「もっと長い方がいいな」とか「もっと短い方がいいな」と感じた場合、簡単に長さを変えることができます。

折りたたみ式

シャフトが折りたたみできるようになっている杖です。折りたたみできない杖に比べて、強度はやや劣りますが、歩行するのに十分な強度は確保されています。 また、折りたたんで外出時にリュックやカバンに杖を入れて持ち運べるのがメリットです。

②シャフトの材質
木材、金属材(アルミ合金、軽金属、ステンレススチール)、高分子材(カーボンファイバー)などがあり、特に最近は、アルミ合金製やカーボンファイバー製のものが多く販売されています。
木材はオシャレなものが多く、ファッションの一部として楽しむこともできます。ただ、高さ調節に手間がかかることや、価格が他の杖に比べると高くなるといった欠点もあります。

アルミ合金製のものは高さ調節が簡単にできることや、木材に比べて軽く、かつ価格も下がるので、どれを購入したらいいか悩む場合には、アルミ合金製のものを選んでいただくといいかもしれません。

3)杖先

杖先には必ず杖先ゴムがついています。杖先ゴムは、靴で言うところの靴底やインソールのようなもので、 地面についた時に滑りにくくしたり、衝撃を吸収したりします。
最近では、以下の商品のように、斜めからつくような時でもバネが角度を補正して、杖先がキッチリと地面につくように動いてくれるゴムもあります。
シャフトの直径と杖先ゴム地面の環境や使用頻度によりますが、杖先ゴムは、交換することが可能です。




杖の種類と特徴

1)T字杖(1本杖)

もっとも一般的なタイプの杖です。折りたたみタイプや伸縮タイプなど種類が豊富です。

【メリット】
●杖の中でも軽量なタイプ
●自然な歩行に近付けることが出来る
●傾斜やデコボコ道でも使えるので、屋内でも屋外でも実用性が高い

【デメリット】
●使い始めは、杖にどれくらい体重をかけていいのか、どのリズムで突いたらいいのか分からず、恐怖感が出たり、力んだりしてしまうことがある
●傘と同様で、外出先で座る時や立ったまま何か手作業をするときに、置き場所に困る

2)3点杖

杖先が3点に分岐している杖を指します。杖先が全方向に可動するようになっているのが特徴です。 T字杖で歩くと不安、つまずくことがある、といった場合は、こちらの3点杖の使用をおすすめします。
介護保険のレンタル対象商品にもなっているので、試してみたい場合は、担当のケアマネージャーに一度相談してみましょう。

3点杖の杖先 3点杖の可動部分

【メリット】
●T字杖よりも体重がかけられる
●傾斜でも使いやすいので、屋外である程度長い距離を歩く場合でも使用することは可能

【デメリット】
●デコボコのある道などでは使いづらい
●T字杖に比べると重い

3)4点杖

杖先が4点に分岐している杖を指します。脳卒中の後遺症による片麻痺で、一歩一歩ゆっくり歩く方に向いている杖です。 4点杖も介護保険のレンタル対象商品になっているので、試してみたい場合は、担当のケアマネージャーに問い合わせをしてみてください。

【メリット】
●T字杖、3点杖よりも体重をかけることができる

【デメリット】
●傾斜や砂利道などの不整地では使用困難
●床面に対して垂直方向に体重をかけないと杖がグラグラしてしまうので、ゆっくり歩く必要がある(スタスタ速く歩く場合には向かない)


※4点杖の注意!
杖の足は内側と外側で角度が違います。外側に大きく広がっている方が、歩く際に外側に来るよう調節する必要があります。
①杖を右手でもって歩く場合(杖が右側にくる)
以下の写真のように、外側に大きく広がっている方が右側にくるようにします。

4点杖を右手で持つ場合の杖先

②杖を左手にもって歩く場合(杖が左側にくる)
以下の写真のように、外側に大きく広がっている方が左側にくるようにします

4点杖を左手で持つ場合の杖先

①、②の調整方法は以下をご参照ください。

4)可動式4点杖

先ほど紹介した杖と同じく杖先は4点に分かれていますが、1点大きな違いがあります。
先ほどの4点杖は地面に向かって真下に体重をかけなければ不安定になりますが、可動式4点杖は3点杖と同様に、 杖先が全方向に可動するようになっているので、地面に向かって斜めから体重がかかっても安定して歩くことができます。
3点杖で歩くと不安、つまずくことがある、といった場合は、こちらの可動式4点杖の使用をおすすめします。
こちらも介護保険のレンタル対象商品にもなっているので、試してみたい場合は、担当のケアマネージャーに相談してみましょう。

【メリット】
●T字杖、3点杖よりも体重をかけることができる
●傾斜や砂利道などの不整地でも使用可能

【デメリット】
●デコボコのある道などでは使いづらい
●T字杖に比べると重い

5)ロフストランド杖

カフ(腕を支える部分)とグリップの2ヶ所で体重を支えるので体重を分散させやすいのが特徴です。腕の力や握力が弱い方に向いている杖なので、 T字杖だとすぐに腕が疲れてしまう場合は、こちらの杖がおすすめです。
こちらも、介護保険のレンタル対象商品にもなっています。

6)松葉杖

骨折や捻挫をしている方など一時的に片脚に体重がかけられない、かけにくい状況の場合に有効な杖です。


杖がもたらすメリット

杖は高齢の方の生活を助けてくれるものですが、具体的にどんなメリットを及ぼしてくれるのか、詳しく説明を聞く機会は少ないかと思います。 ここではケース事例を元に、杖が必要になるまでの過程から、杖がもたらすメリット、使用するタイミングを説明します。

事例:左脚に痛みや顕著な筋力低下などの異常が生じているケース
過程①左脚に以下のような症状が出る
・ねんざ、骨折、じん帯損傷などにより片脚だけ長期の安静を強いられることで顕著な筋力低下が生じている
・脚の一部(関節や筋肉)に痛みを感じている
・脳卒中や骨折などの後遺症により麻痺が生じている

過程②歩くスピードやバランスに以下のような支障が出る
過程①の症状により左脚(患側)に体重をかけづらくなることで、歩く際に右脚が出しにくくなります。そうなると、以下のような支障が生じます。
・左脚に体重をかけた時に上半身がふらついてしまう
・右脚がつまずきやすくなる
・歩くスピードが遅くなってしまう(例えば、横断歩道が青信号のうちに渡れなくなる)

この時点で、杖が必要となります。杖は弱った左脚を補強し、上記のような支障を解消してくれます。
もし、この時点で杖を使わないまま生活を続けていると以下の過程に進んでしまう可能性があります。

過程③行動範囲が狭くなってしまう
過程②の影響で、行動することにおっくうになることや、不安感が強くなることで、無意識に行動範囲を狭めてしまいます。 そうなると、筋力低下が進行することで歩く機能もより低下してしまい、大きな転倒につながることも考えられます、 杖を使い始めるタイミングとしては遅いと思いますが、この時点でも杖を使うことで、転倒を防ぐことができます。

杖が必要となるまでの過程の中で、杖がもたらすメリットや杖を使うタイミングについて解説しましたが、実際に杖を選ぶことになった場合、 「杖には様々なタイプがあるので、どれを選んだらいいのかよく分からない」という新たなお悩みが出てくるかと思います。
次では、このようなお悩みを解決できるように、選ぶ目安について解説していきます。

杖を選ぶ際に知っておいた方がいいこと

杖を選ぶ目安


杖を選ぶ際には、以下の流れを確認してみてください。

①あなたの歩き方を教えてください

まず、杖を使う予定の方の歩き方を確認してください。以下の二つの歩き方の、どちらにあてはまりますか? 歩き方の種類

②歩き方を確認したら、身体に合った杖を選ぶために以下のフローを参考にしてみてください。

杖選びのフローチャート
T字杖を選ぶ際の注意点
前述した通り、T字杖には、伸縮しないタイプと伸縮式と折りたたみ式があります。
折りたたみ式は、耐久性は他に比べると劣りますが、コンパクトにたためるので持ち運びに大変便利です。
日常的に使うのではなく、外出先で必要に応じて使いたいという場合には、折りたたみ式をおすすめします。日常的に使うことを想定している場合、伸縮式の杖をおすすめします。

杖を購入した後に確認して欲しいこと

杖を購入した際に、ご自身の身体に合った長さに調節し、正しい持ち方、正しいつき方で使い始めていただくことが大切です。

1)杖の長さ調整
杖の長さが身体に合っていなければ、歩く際に前方、または後方に転びやすくなってしまいます。杖を使う前に、以下の写真を参考に、長さを調整してください。現在使用している方も、再確認してみてください。 杖の長さ調整のやり方 2)持ち方
グリップの握り方を正しく握れていない場合、手首を痛めてしまったり、杖先ゴムが早く劣化してしまうことがあります。以下の写真を参考に、正しく握れているか確認してみてください。 杖の正しい持ち方 3)杖を使った歩き方
杖のつき方は、大きく2つの方法に分けられます。それぞれについて、説明していきます。

①:2動作歩行

以下の写真のように杖と患側(右脚を想定)を同時に出します。 2動作歩行の歩き方 ②:3動作歩行
以下の写真のように杖を先に出してから患側(左脚を想定)、そして健側(右脚を想定)を順番に出します。
杖を使い始める際には、3動作歩行で歩き始め、慣れてきたら2動作歩行に移行していくことをおすすめします。 3動作歩行の歩き方

杖を使い続ける上で気をつけたいこと

人の身体は時が経つとともに変化しますので、現在使用している杖が自分に合っているか、見直すことが大切です。例えば以下のように、杖を見直すことで歩行に良い影響が出ます。




見直し例①:杖先ゴムを通常のものから面密着の商品に変えるだけで歩いている時の安定感が増した

関連商品 面密着杖先ゴム




見直し例②:姿勢が変わってきたので杖の長さもそれに合わせて変えたら、楽に歩けるようになった

関連商品 伸縮タイプ杖




見直し例③:歩くスピードが遅くなりつまずくこともあったので、T字杖から多点杖に変更したら安定して歩けるようになった

関連商品 多点杖



現在使っている杖が身体に合っていないと感じる場合は、記事にあるおすすめ商品を参考にしてみてください。
介護保険サービスを利用している方は、ケアマネージャーを通じて理学療法士や福祉用具を販売・レンタルしている業者にご相談いただくことをおすすめします。

杖の選び方 まとめ

杖は、使用される方の移動をサポートし、生活範囲を広げ、生活の質を上げくれる素晴らしいアイテムです。
しかし、選び方、使い方を間違えてしまうと、身体への痛みを生んでしまったり、転倒の危険性を高めてしまったり、と生活の質を下げてしまうものに変わってしまいます。

本記事の、「杖の基礎知識」「杖を選ぶ前に知っておいた方がいいこと」を読んだ上で選んでいただき、使用される方の身体にあったものをお使いいただければと思います。
杖購入後は「杖を購入した後に確認して欲しいこと」「杖を使い続ける上で気をつけたいこと」の記事を参考に使っていただければ、きっと杖は素晴らしいアイテムになると思います。
ご自身に合った杖を使用して、毎日の歩行に安心をプラスしましょう。

 記事監修 
  • 監修者写真
    林 悠太
    株式会社ツクイ
    理学療法士、社会福祉士
    介護支援専門員

     

  • 専門学校卒業後、株式会社ツクイ入社。従業員向けに機能訓練に関する教育研修に従事。 仕事の傍ら、筑波大学院にて修士課程を修了し、その後信州大学大学院の博士課程へ進学し、高齢者の重度化予防、要介護度の改善をテーマに研究活動にも取り組んでいる。
    現在は同業他社様ほか、一般市民向けや企業向けに介護予防や介助技術に関する研修・セミナーを多数担当している。