しかし、介護に直面した自分や家族を支えてくれる大切な制度でもあります。
本記事では、知っておきたい介護保険について詳しく説明し、さらに10年以上の現場経験を持つケアマネージャーから「賢い使い方のポイント」について解説していきます。
介護保険制度は2000年からスタートし、制度の運営(保険者)は、全国の市町村と東京23区(以下市区町村)です。
40歳以上の国民から徴収した保険料と税金で運営されています。
介護保険の使い方を説明する前に、介護保険制度の柱となる考え方3つを知っておきましょう。
つまり、介護保険制度は高齢者の自立を支援することを理念とし、使うサービスは利用する側が決め、社会全体で支えていく制度となります。
介護保険を利用できる人は、年齢によって「第1号被保険者」と「第2号被保険者」に区分されます。
介護保険制度の利用で特に混乱するのは、要介護認定の申請からサービス導入までの時期です。
介護がスタートし、慌ただしい中で手続きをすすめていくため、混乱を避けるためにも簡単に流れを理解しておきましょう。
65歳になる前に「介護保険被保険者証」が届きますが、そのままでは介護保険サービスを使うことができません。
介護保険サービスを利用するには、最初に要介護認定(要支援認定を含む。以下同じ)の申請を行います。申請書類は市区町村や地域包括支援センターで取得することができ、ほとんどの場合、申請も同じ窓口で受け付けています。
また、インターネットから申請書をダウンロードすることもでき、データを印刷しておけば事前に必要な情報を確認することができます。
要介護認定の申請後は、次の手順で要介護認定が決まります。
要支援・要介護の認定を受けた方はケアプラン(居宅サービス計画書)の作成をケアマネージャーに依頼し、介護保険(介護予防)サービスを利用することができます。
ケアプランとは、どのような介護サービスをいつ、どれだけ利用するかを決める計画のことです。ケアマネージャーは利用者(サービスを利用する方)のニーズを把握し、意向に沿った適切な介護保険サービスを組み合わせてケアプランを提案・作成していきます。
日常生活は基本的に自分で行えるが、多少の支援を要する状態が要支援となります。
介護が必要となる状態にならないことを目的に、介護予防サービスを利用することができます。
ケアプラン作成は地域包括支援センターに依頼します。
日常生活における基本的動作を自分で行うことが難しく、継続して他者による介護が必要な状態です。 介護を受けながら状態が悪化することを防ぐ、あるいは身体機能を維持・改善するために介護サービスを利用します。 ケアプランは居宅介護支援事業所のケアマネージャーに依頼します。
介護を必要としていない状態だと判断された場合は「非該当(自立)」と認定されます。 ただ、「非該当(自立)」と認定されても、実際は部分的な生活に支援が必要だったり、閉じこもりがちだったりで、要介護状態に陥るリスクのある方もいます。 市区町村では、そのような方を対象に「介護予防・日常生活支援事業(総合事業)」などを介護予防の観点から展開しており、サービスを利用することができます。相談は市区町村の窓口、もしくは地域包括支援センターとなります。
ケアプラン(居宅サービス計画書)ができたら、利用者(サービスを利用する方)とサービス事業所が契約を交わして介護サービスを利用していきます。
要介護認定を受けた後も在宅生活を継続する方に提供するサービスが「居宅サービス」です。 居宅サービスには「自宅で受ける」「施設に通う」あるいは「宿泊、通い、自宅で受ける」が複合的に利用できるサービスなどがあります。
介護保険の使い方や充実した居宅サービスはわかったけど「費用はどのくらいかかるのかしら?」「負担金額は高い?」など利用料金が心配になります。
介護保険は介護度に応じて限度額(区分支給限度額)が定められており、基本的にはこの範囲内で介護サービスを利用していきます。 介護度が重いほど限度額の幅は広がります。限度額以上のサービスを受けることはできますが、超えた分は全額自己負担となります。
※介護保険は点数表記となっているため、提示している表は1点10円で計算しています。
介護保険(介護予防)サービスを利用した場合の負担額は、介護サービスに掛かった費用の1割~3割です(所得によって割合が決まります)。 例えば10,000円分のサービスを利用した場合に支払う費用は1,000円(2割は2,000円、3割は3,000円)となります。
介護保険制度は早い段階からポイントを抑えて使うことで、介護を遠ざけることができたり、介護者(家族)の生活を維持したまま介護を長期間継続できたりします。
介護が必要になってから介護保険サービスを利用するのではなく、もっと前の段階から介護予防サービスを利用することをお勧めします。 例えば親であれば、「最近少し元気がないな」「外出することがずいぶん減ったな」「体力が落ちたようだ」と、身体機能の衰えや社会とのつながりが減ってきたのでは?と心配になることがあります。 まだ介護は必要ないけど、なんだか心配…そんなときは、介護予防サービスや自治体が取り組む介護予防・日常生活支援事業を活用しましょう。 早めに対策していくことで、介護を必要としない期間を長く保つことができるようになります。
きちんと納得できないまま、介護保険サービスを利用しないということが重要です。 介護保険サービスは利用する側に選択する権利があり、理由があればサービス内容や介護サービス事業所は変更できるのです。 例えばケアマネージャーに勧められたデイサービス(通所介護)を利用したけど、親にはあっていないようだ…でも、変更したいと言い難い…と感じながらデイサービスを使い続けると不満が大きくなりトラブルも生じやすくなります。 介護保険サービスでわからないことや不満を感じたら、率直にケアマネージャーや介護関係者と話し合いましょう。
「ケアマネージャーは利用者本人を担当している人だから、介護を抱えた家族の相談にはのってくれない」と思い込んではいないでしょうか。 もちろんケアマネージャーは利用者が快適に暮らせるよう支援を行いますが、介護を行う家族を支えていくことも非常に重要なことです。 “家族関係に問題があり介護に影響が生じている”、あるいは“家族の介護負担やストレスが大きくなっている”などの状況に対し、ケアマネージャーは適切に介入して相談に応じます。 介護家族に休息が必要だと判断すれば、一時的に介護から離れられるようなサービスをケアプランに盛り込むこともできるので、積極的に相談していきましょう。
例えば、自宅に手すりなどを設置したいとなった際に、高齢者の住まいが賃貸、あるいはデザインに凝っている住宅などであった場合、工事をして手すりを付けることができないケースがあります。 そんな時に活用できるのが、置くタイプや突っ張るタイプの手すりです。 その他、外出先や家の中で使える歩行器も数多く取り揃えがあり、レンタルであれば身体に合わない場合は交換することができます。 レンタルできる福祉用具は種類が多く、定期的に評価やメンテナンスも行ってくれるので、活用していきましょう。
介護が始まると混乱状況の中で慌てて施設入所を決めてしまい、後から後悔することも…。 例えば“入居した親が納得しておらず「帰りたい」と言い出した”、あるいは“費用の計画を立てておらず、途中から支払いができなくなった”、 “想像していた雰囲気と違っていた”などといったトラブルが生じやすくなります。 そのような失敗を回避するために、最初は在宅介護からスタートすることをお勧めします。 自宅で受けられるサービスを活用し、家での生活が落ち着いてから情報収集し、施設を検討していきましょう。 案外在宅介護が良い状況で続くかもしれませんし、施設入所に踏み切る場合でも、しっかりと支払い計画を立て、見学や体験入所を経てから入所すれば、後悔することもなくなるでしょう。
介護保険サービスは1ヵ月のサービス利用料が一定の自己負額を超えた場合、高額介護サービス費制度の手続きを行うことで負担を軽減できる可能性があります。 要介護状態が進行して介護保険サービスを多く利用した場合、自己負担額も大きくなります。そんな時に、所得に応じた限度額の超過分を払い戻してもらえる制度です。 その他、医療費控除の対象となる介護保険サービスや市区町村独自の施策もあるため、活用していきましょう。
制度施行から20年以上経過し、介護保険制度は成熟してきました。 介護を要する高齢者や介護者の人生を豊かに支えるため、「利用者本位」という考え方を基本に、さまざまな介護事業者がサービスを提供しています。 介護保険制度の使い方を知り、主体的にサービスを利用することで、負担や不安が軽減され安心した生活が継続できるようになります。 介護保険制度は複雑ですが、ケアマネージャーや介護サービス事業者にわかるまで説明してもらい、納得した上で利用していきましょう。