買い物かご

特集から探す

アクティビティ

【負担軽減】車いすの移乗がもっと楽になるアイテム -トランスファーボード-

この記事では、移乗介助において「介助を受ける方(以下、被介護者)」「介助をする方」の双方に対して、少ない負担で安全に介助できる方法をご紹介します。

移乗介助において、介助をする方に大きな負担がかかりやすい場面、例えば、被介護者の下半身の筋力低下が著しいケースや、座っている時に関節が硬くて床に足をつくことができないという方の場合をモデルにし、解説します。 【負担軽減】車いすの移乗がもっと楽になるアイテム -トランスファーボード-

移乗介助と介助者の負担について

ご自宅における移乗介助は、介助者に身体的な負担がかかりやすい場面の一つです。
この負担が積もっていくと、後々の被介護者、介助者、双方の生活に大きな悪影響を及ぼしかねません。そのような事態にならないよう、移乗介助での負担を軽減していくことが大切です。

移乗介助での負担軽減が大切なわけ

ベッドから車いすヘ、車いすからベッドへ、食事や入浴の際に車いすからいすへなど、日常生活の中で移乗を行う場面はたくさんあります。
そのため、移乗での介助量が増えれば増えるほど、介助者の腰への負担は増し、ある時突然ぎっくり腰になってしまったり、ヘルニアを悪化させてしまったりする危険もあります。

移乗介助において、怖いのはそれだけではありません。介助者の身体的負担が高まれば、移乗介助に対して消極的になってしまい、被介護者が椅子に座っている時間、ベッド上で過ごす時間がどんどん長くなってしまい、図1のような負のサイクルを引き起こす危険があります。

ベッド上で安静にしている時間が長くなると、1日の安静で1~4%の筋力低下が起こり、3~5週間で約50%まで低下すると報告されています1)。そのため、座っている時間、寝ている時間が長くなることは、介助者にとっても被介護者にとっても一時的には楽かもしれませんが、被介護者の機能低下が進行してしまうことで、要介護状態の重度化へとつながることが考えられます。
そのため、結果的にはお互いにとって百害あって一利なし、となってしまいます。

これらのことから、移乗介助において身体的な負担を感じている場合は、早めに対策を講じることが大切です。

図1:移乗介助での身体的な負担が増すことで起こり得る負のサイクル

こんな移乗介助方法は、腰への負担を増大させてしまう

移乗介助の際に、図2のような姿勢をとっていないでしょうか。この姿勢は、普通に背すじを伸ばして立っている時よりも1.5倍、腰椎への負担が増します。

図2:膝を曲げないまま前かがみ

さらに、このような姿勢のまま図3のように5kgの荷物を持ちあげようとすると「2.2倍」、20kgの荷物を持ち上げようとすると「4.5倍」、腰椎への負担が増します。

図3:膝を曲げないまま前かがみになり、荷物を持ち上げる

介助をする際に、介助技術を全く気にせずに図4のように前かがみ姿勢で被介護者を立ち上がらせようとした場合、腰にかかる負担は計り知れません。

図4:膝を曲げないまま前かがみなり、移乗介助を行う

そのため、介助技術を身に付けて腰を護っていくことはとても大事ですが、正しい介護技術を身に付けるためには、それなりに時間が必要になると思います。
そこで、知っていただきたいのが福祉用具の力です。

意外と知らない 介助が楽になる福祉用具

自宅で移乗介助をする際に、とても便利な福祉用具があるのをご存知でしょうか。
移乗介助の負担で「腰がつらい」と、感じていらっしゃる方に必見の福祉用具をご紹介します。

トランスファーボードの力を知ろう

トランスファーボード(別名、スライディングボード)とは、ベッドや車いすへの移乗の際に、被介助者が座った姿勢のまま、横にお尻を滑らせることで移乗することができる用具です。
介助者は相手を立たせようとする必要がないので、介助者の腰の負担を軽減させるにはとても有効な用具です。
介護保険のレンタル対象商品にもなっているので、試してみたい場合は、担当のケアマネージャーに一度ご相談されることをおすすめします。

写真①:トランスファーボード

トランスファーボードを使用する際に欠かせない「3つのチェック項目」

以下の3条件が揃っていると、移乗介助の際にトランスファーボードを安全に、かつ効果的に使用することができます。介助の前に、チェックしてみてください。

1.被介護者が一人で・あるいは一部介助で座っていられるか

被介護者が、背もたれに寄りかからずに一人で座っている、または一部介助(片手で支えられる程度)により座っていることができるかどうかをチェックしてください。
両手で支えないと座っていられない場合は、移乗介助の際に介助者1人にかかる負担がかなり増します。この場合は、介助者2人で移乗介助することをおすすめします。

  • 写真②:一部介助で支える
  • 写真③:両手で支える

2.ベッドの高さ調整が可能であること

トランスファーボードを使う際には、以下の写真④、⑤のように、移乗する側の座面が移乗前の座面に比べてやや低くなる(トランスファーボードを座面に置いた時に、乗り移る側の座面に向かって傾斜の緩い滑り台のようになる)と使いやすくなります。
そのためには、ベッドが高さ調整できるようになっている必要があります。
以下の写真⑥のように、高さ調整を行うリモコンがついたベッドも介護保険のレンタル対象商品ですので、まだ使用していない場合は一度担当のケアマネージャーに相談してみてください。

  • 写真④:ベッドから車いすへ移乗する場面
  • 写真⑤:車いすからベッドへ移乗する場面
  • 写真⑥:ベッドの高さ調整ができるリモコン

3.車いすの肘置き、足置きが外せること

トランスファーボードを使う際には、上記の写真④~⑤のようにセットします。
写真を見ていただくとわかる通り、車いすの片側の肘置き(アームレスト)、足置き(フットレスト)を外せる車いすを使うことになります。

  
  • もし写真⑦のように、外さないままトランスファーボードを使うと、移乗の際に床に転落してしまったり、足が足置きに当たって怪我をしてしまったりする危険があります。このような状態にならによう使い方にご注意いただき、安全にご使用ください。

  • 写真⑦:【悪い例】トランスファーボードの置き方
  
  • 写真⑧のように、肘置き、足置きが外せる車いすも介護保険のレンタル対象商品ですので、必要な場合は一度担当のケアマネージャーへご相談ください。

  • 写真⑧:肘置き、足置きが外せる車いす
     

【動画あり】トランスファーボードの使い方

トランスファーボードの使い方は以下の動画をご参照ください。
また、介護保険でレンタルする際には、福祉用具のレンタル品を扱っている業者から使用方法について説明を受けることができますので、是非詳しく聞いてみてください。

【トランスファーボードの使い方】

他にもあります 介助が楽になる福祉用具

車いすからの移乗まとめ「福祉用具は活用しなきゃ損!」

移乗介助は、1日数回~数10回にも及び、それが1週間・1ヵ月・1年と続くとなると、介助者の腰は悲鳴を上げてしまうかもしれません。
移乗の介助をする方・される方、双方のためにも、少しでも負担を感じたら、福祉用具の力をどんどん使ってみてください。

参考文献:
1) Müller EA:Influence of training and of inactivity on muscle strength. Arch Phys Med Rehabil 1970 : 51 : 449-462
2) Nachemson A :The lumbar spain.An orthopaedic challenge.Spain 1:59-71,1976

 記事監修 
  • 監修者写真
    林 悠太
    株式会社ツクイ
    理学療法士、社会福祉士
    介護支援専門員

     

  • 専門学校卒業後、株式会社ツクイ入社。従業員向けに機能訓練に関する教育研修に従事。 仕事の傍ら、筑波大学院にて修士課程を修了し、その後信州大学大学院の博士課程へ進学し、高齢者の重度化予防、要介護度の改善をテーマに研究活動にも取り組んでいる。
    現在は同業他社様ほか、一般市民向けや企業向けに介護予防や介助技術に関する研修・セミナーを多数担当している。