「さっきご飯を食べたばかりなのに、また『お腹が空いた』と言われる」
「食べたこと自体を忘れているようで、どう対応すればいいのか分からない」
そんな悩みを抱えている介護家族の方は、決して少なくありません。
認知症のある方が何回もご飯を食べる、または食べたことを忘れるような様子がみられる場合は、記憶障がいなどが影響している可能性があります。仕組みを知ることで、「困った行動」ではなく「本人なりの自然な反応」として受け止めやすくなります。
本記事では、認知症のある方が何度も食べたがる理由と、家族が実践しやすい対応方法を分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 認知症のある方が何度も食べたがる背景には、記憶障がい・食行動の変化・不安などが関係していると考えられています
- 「食べたことを忘れる」のは、加齢による物忘れとは異なる特徴があります
- 「さっき食べたでしょ」と強く否定する対応は、かえって不安や興奮を強めることがあります
- 食事の記録を見える場所に残す、少量のおやつを活用するなど、生活の中でできる工夫があります
- 症状が急に強まった場合や体調の変化を伴う場合は、医療機関への相談が大切です
認知症のある方が何度も食べたがるおもな理由
食後すぐに食事を求めたり、何回もご飯を食べたがったりする背景には、いくつかの要因が重なっていると考えられています。
記憶障がいで「食事をしたこと」自体を忘れる
認知症の中核症状の一つに記憶障がいがあります。特に、つい先ほどの出来事を覚えておく「短期記憶(数分前〜数時間前の出来事を保持する記憶)」や、日々の体験に関する「エピソード記憶」の働きが低下することで、食事をした体験そのものが記憶に残りにくくなる場合があります。
国立長寿医療研究センターによると、認知症のもの忘れ(記憶障がい)では、同じことを何度も言ったり聞いたりする、最近あった自分の体験を忘れてしまうといった症状がみられるとされています。加齢による物忘れとは異なり、「食べたこと」自体が記憶から抜け落ちるため、本人にとっては「まだ食べていない」という感覚が紛れもない事実となります。
以下の表は、加齢による物忘れと認知症による記憶障がいの違いを分かりやすくまとめたものです。
| 比較項目 | 加齢による物忘れ | 認知症による記憶障がい |
|---|---|---|
| 体験の記憶 | 「何を食べたか」など一部を忘れる | 「食事をしたこと」自体を忘れる |
| ヒントの有無 | ヒントがあれば思い出すことが多い | ヒントがあっても思い出せない |
| 自覚症状 | 忘れっぽさを自覚していることが多い | 忘れた自覚が乏しい場合がある |
| 日常生活 | 大きな支障は少ない | 生活への支援が必要になる場合がある |
食欲や食行動に変化がみられることがある
認知症の種類(前頭側頭型認知症など)や症状によっては、満腹感を得にくくなったり、特定のものへの執着が強まったりと、食行動そのものに変化が現れることがあります。ただし、こうした変化の現れ方には個人差があり、すべての方に同じように起こるとは限りません。
出典:認知症|健康長寿ネット
不安やストレスが影響している
環境の変化や孤独感、不安な気持ちが、食べ物を求める行動として表れることもあります。「食事」という馴染みのある行為を通じて、安心感を得ようとしているケースです。
服薬や病気が関係している場合もある
一部の服薬による副作用や、糖尿病・甲状腺機能の異常など、身体的な病気が食欲の変化に関係している可能性も考えられます。急に食欲が増した、逆に極端に落ちたという場合は、認知症以外の要因が隠れている可能性もあるため、注意が必要です。
家族が避けたいNG対応
本人には食事をした記憶がないため、事実を突きつけるだけの対応は不安や興奮を強めてしまう場合があります。
「さっき食べたでしょ」と強く否定する
本人にとっては「食べていない」ことが紛れもない事実として感じられています。強く否定すると、「信じてもらえない」という孤立感や不信感につながることがあります。事実を突きつけるのではなく、まずは気持ちを受け止める姿勢が大切です。
叱ったり責めたりする
叱責は、本人の自尊心を傷つけ、不安や興奮を強めてしまう可能性があります。何度も同じ要求をされるとつらく感じるのは自然なことですが、本人に悪気があるわけではないという前提を持つことが、家族の気持ちを保つ助けにもなります。
無理に我慢させる
空腹感そのものを我慢させようとすると、かえって食べ物への執着が強まったり、被害的な気持ちを抱いたりすることがあります。完全に我慢させるのではなく、次項で紹介するような工夫で気持ちを落ち着けていく対応が現実的です。
認知症のある方が何度も食べたがるときの対応法
否定せずに気持ちを受け止めながら、生活の中で無理なく続けられる工夫を取り入れていきましょう。
基本姿勢:まずは否定せずに受け止める
【NG】
「さっき食べたばかりでしょ!」と強く否定する
【OK】
「お腹が空きましたね。今確認してみましょうね」と安心できる言葉をかける
実践できる工夫
- 食事の記録を見える場所に残す:食後の食器をしばらく下げずに置く、ホワイトボードに「12:00 昼食済」と書くなど、視覚的に伝わる工夫をします。
- 少量のおやつや食事の小分けを活用する:「今準備していますね」と伝えながら、低カロリーで少量の軽食やお茶を出す方法もあります。空腹感をやわらげながら、次の食事までの時間をつなぐことができます。1日の食事回数を増やし、1回あたりの量を調整する方法も選択肢の一つです。
- 食事や軽食時に水分をしっかり摂る:体内の水分が不足すると脱水を引き起こし、認知機能の低下や混乱を強める要因になります。メインの食事の際に水分をたっぷり摂ってもらうほか、食後に繰り返し求められた際も、軽食と一緒に必ず水分を用意しましょう。
- 便通(便秘)の状況を確認する:便秘でお腹の張りや違和感があると、その不快感を上手く伝えられず「お腹が空いた」と表現したり、食事へのこだわり(過剰な要求)として表れたりすることがあります。日頃から排便のリズムや状態をチェックしておくことも大切です。
- 気分転換や会話を取り入れる:食べ物以外の話題や、軽い散歩、会話の時間を挟むことで、気持ちが落ち着くことがあります。ただし、話題をそらすことで本人が不安になる場合もあるため、様子を見ながら無理のない範囲で行いましょう。
- 生活リズムを整える:起床・食事・就寝の時間をできるだけ一定に保つと、心身の安定につながります。生活リズムを規則正しく保つことは、不安や混乱を減らす土台になります。
受診・相談を検討したほうがよい目安
下記の症状は、認知症の進行状況や身体的な病気、服薬の影響などさまざまな要因が関係している可能性があります。かかりつけ医や、地域包括支援センター、認知症疾患医療センターなどに相談することで、適切なサポートにつながります。
- 食欲の変化が急激である、または急に食べなくなった
- 体重の増減が激しい
- 暴言や暴力など、行動・心理症状(BPSD)が強く出ている
- 食べ物ではないものを口にする(異食)が見られる
- 本人や家族の生活に支障が出ている、介護者の負担が大きい
認知症以外の病気が原因となっている可能性もあるため、急な変化がみられたときは早めの相談を検討するとよいでしょう。
出典:認知症施策|厚生労働省
よくある質問(FAQ)
- Q. 食後すぐに「まだ食べていない」と言うのは認知症ですか?
- A. 記憶障がいの症状の一つである可能性はありますが、それだけで判断はできません。継続的に見られる場合は、医療機関への相談を検討するとよいでしょう。
- Q. 何度も食事を要求されたら与えても大丈夫ですか?
- A. 毎回食事量を全て与えるのではなく、少量のおやつや軽食で気持ちを落ち着ける方法がすすめられています。栄養バランスが気になる場合は、管理栄養士や医師に相談してみてください。
- Q. 認知症になると満腹感がなくなることはありますか?
- A. 認知症の種類や症状によっては、食欲や食行動に変化がみられることがあるとされています。ただし、すべての方に同じように起こるわけではなく、個人差があります。
- Q. お菓子ばかり食べたがるのはなぜですか?
- A. 手軽に食べられる、甘いものへの嗜好が変化するなど、複数の要因が考えられます。心配な場合は専門職へ相談するとよいでしょう。
- Q. 認知症で食べ過ぎると健康に影響しますか?
- A. 食べる量が増えることで、体重増加や生活習慣病のリスクにつながる可能性があります。1回あたりの量を減らし、回数を分けるなどの工夫と合わせて、気になる場合は医師や管理栄養士に相談することをおすすめします。
- Q. 認知症のある方が夜中に食べ物を探すのはなぜですか?
- A. 食べたことを忘れている、生活リズムが乱れているなど、複数の要因が関係していると考えられています。夜間に食べ物を探す様子が続く場合は、生活リズムの見直しとあわせて、医療機関や専門職へ相談することをおすすめします。
- Q. 家族だけで対応するのが難しい場合はどうすればよいですか?
- A. 一人で抱え込まず、地域包括支援センターやケアマネジャー、認知症疾患医療センターなどの専門機関へ相談することをおすすめします。
まとめ|気持ちを受け止め、無理のない工夫から始めよう
認知症のある方が何度も食べたがる背景には、記憶障がいや不安など本人なりの理由があります。「困らせようとしている」わけではないことを理解し、まずは否定せずに言葉を受け止めることが対応の第一歩です。
食事記録の作成や小分け対応など、できる工夫から少しずつ試してみてください。介護するご家族だけで抱え込まず、困ったときは地域の相談窓口や専門職を頼りながら進めていきましょう。
SONOSAKI LIFEでは、健康づくりに役立つ情報や介護の「お悩み」に寄り添う情報をお届けしております。ほかのコラムもぜひご覧ください。


