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【認知症の人の気持ち】心を理解してケアするコツ

私たちは認知症の人に対して、どんなイメージを持っているでしょうか?「何も分からなくなった人」「不可解な行動が多い、面倒を起こす人」と思われている方もいるかもしれません。 しかし、認知症の人が感じる気持ちは私たちと同じで、落ち着きがなく歩き回ったり、攻撃的になったりする行動は、そうせざる得ない理由があるのです

今回は、認知症の人が落ち着かないとき、当事者の中で何が起こっているのか、どんな気持ちでいるのかを解説していきます。認知症当事者の気持ちを知ることは、より良いケアにつながる大きなヒントとなります。日々の介護が少しでも楽に取り組めるように、認知症の複雑な一面を理解していきましょう。



2025年は高齢者5人に1人が認知症

2017年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、高齢者人口の15%という割合だったものが2025年には5人に1人、20%が認知症になるという推計もあります。


認知症 将来推計

もはや、認知症は他人事ではありません。身近な家族、近隣の人など、普段の生活の中で接する機会が増えるかもしれません。 そんなときに、認知症の人がどんな心理状態に置かれているのかを知っておけば、対応方法のヒントとなるはずです。


「家に帰りたい」その理由は?

例えば、こんなことがありました。

デイサービスに初めて通うことになった認知症のAさんは、施設到着後しばらくは愛想よく周囲の方と談笑していました。
30分ほど経つと、近くにいる介護スタッフを呼び「そろそろ帰るよ」と言いました。 介護スタッフは「今日は楽しいイベントがありますから、もう少し居て下さい」と伝えましたが、Aさんは「お茶を飲みに来ただけだから、もう家に帰るよ」と言って立ち上がり、出入り口に向かって歩き出します。
介護スタッフが3人ほど駆け寄り、Aさんを引き留めようと説得します。Aさんは「家に帰らせてくれ」と言って力ずくでドアを開けようとします。徐々にAさんは不穏となり、怒鳴り声を上げました。

※デイサービス…要介護・要支援認定を受けた高齢者が、日帰りで通える施設。食事やレクリエーション、機能訓練、入浴などのサービスを受けることができる。


怒る高齢者

このような場面を、皆さんはどう感じるでしょうか。Aさんは、どのような心境でこのような行動に及んだのでしょう。それを知るには、まず「認知」とは何かを理解することです


「認知」とは何か?

認知とは「考える」「理解する」などの活動を指し、自分が置かれている状況を「認識」「理解」「判断」するプロセスを含んだ総合的な精神の働きです。


  • 「認識」

例えば、今この記事を読んでいるあなたは、自分の置かれている場を「認識」しているでしょう。自宅のリビングだったり職場だったり、あるいは電車の中やカフェかもしれません。つまり「ここはどこ?」がわかっているということです。

  • 「理解」

例えばカフェでこの記事を読んでいるのであれば、その場と自分の関係がわかっているのが「理解」です。「なぜわたしはここに?」がわかっているということです。カフェであれば、コーヒーを飲みに来た…という状況を「理解」しています。

  • 「判断」

そして、自分はどのような行動をとればよいのかがわかるのが「判断」です。カフェにコーヒーを飲みに来たのに、大声で歌うことはないでしょう。その状況で「私はどうすればいいのか」がわかるということです。


このように、私たちは常に変わっていく状況に対してマッチした行動をとっていきます。 例えば、職場にいれば「ここは家ではない」と認識し、自分は仕事でこのオフィスに居ると理解し、12時になったから昼食に行こうと判断する、ということです。


認知

状況を正しく認知できないと、人は不安になる

状況を認知できなければ、自分がどうしてここにいるのか、どうすればいいのかがわからなくなります。そうなると、強い不安とともに、その状況にマッチした行動をとることができなくなります


✅ わかる場所に行きたい

冒頭のデイサービスに来たAさんの状況について考えてみましょう。
Aさんは自分のいる状況を正しく「認識」できていません。「お茶を飲みに来ただけだ」という発言から、カフェや喫茶店と思っていたのかもしれません。帰ろうとしたときに介護スタッフから止められ、この場所に留まることを要求されます。
Aさんはデイサービスという場所を認識していないので、なぜ自分が留まらなければならないのか理解できません。この場所がわからないので、「自分のわかる場所に行きたい」と思うから、「家に帰る」と言って、出入口に向かったと考えられます。


✅ 自分に置き換えて考えてみる

Aさんの心理状態を自分に置き換えてみると、こうなります。
朝目覚めたら、全く知らない部屋にいます。窓も家具もなく、出入り口は施錠されています。まるで映画のような展開ですが、想像力を働かせて考えてみてください。 この場所がどこなのか「認識」できず、なぜいるのか「理解」もできない。どうすればこの部屋から出られるかもわからないので、自分はどう行動すればいいのか「判断」できない
こんな不安な状況下に置かれているのが、認知症の心理なのです。


だから水分が大事になる

人は脱水状態になると理解力や判断力が低下します。高齢者は体の水分蓄積量が低下するため、たった1~2%の水分が体から足りなくなるだけで、認知力が低下していきます。 認知症であれば混乱や不安が強くなり、場違いな行動に出てしまいます。人によってはぼんやり感が強くなり、無気力や反応が鈍くなることもあります。


脱水


  • 認知症であれば、必要量の水分を毎日欠かさないことがケアの秘訣!認知症の人は特に水分を重要視する必要があります。



「家に帰る」と落ち着かなくなったAさんは、体の水分が不足していた可能性があります。 ゆっくりと、たっぷり水分を摂ってもらいながら、今いる場所が安心できる場であることを伝えれば、落ち着きを取り戻したかもしれません。
普段の生活の中で高齢者に接したとき、「話が噛み合わない」「混乱や不安を感じている」「ぼんやりしている」など「認知症かな?」と思ったら、まずは座って水分を十分に摂ってもらいましょう。 水分はすぐに体を巡るため、脳への血流も改善されて認知力がアップします。



【認知症の人の気持ち】心を理解してケアするコツ まとめ

認知症の人は常に変わる状況に対して混乱や不安を感じています。常に不安な状況であれば、人はそこから逃れるために他者には理解できない行動をとることもあるでしょう。 「場」が理解できなければ大声で家族を呼ぶかもしれません。荷物をまとめて帰ろうとするかもしれませんし、パジャマのままでもバスや電車に乗り込んでしまうかもしれません。
認知症の人と接したときに、相手が恐怖や不安を感じているようであれば、まずは水分を勧め、ゆっくりと落ち着いて話すことから始めてみてください。


 記事監修 
  • 監修者写真
    若橋 綾
    株式会社DIGITALLIFE
    管理部
    介護支援専門員

     

  • 介護支援専門員や介護事業所の管理者として10年以上の現場経験があり、家族問題を抱える家族や虐待案件も含め様々なケースを担当。
    現在は介護現場で培った経験を活かし、企業向けに介護離職予防を目的としたセミナーの開催や介護に関する記事作成を行うなど活躍は多岐にわたっている。