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【体の負担を軽減】歩行介助をもっと楽にする|秘訣は体重移動

歩行介助

高齢者の方の歩行を介助する際に、「転倒させないように」ということを意識しながら介助されている方は多いと思います。 もちろん転倒させないようにすることは重要ですが、人それぞれ、歩く姿勢やふらつき具合、歩くスピードなどが異なるため、 実際に介助をしてみると、しっくりこなかったり、危なく感じたりし、とりあえず腕を抱えて相手に密着しながら介助したことはないでしょうか。


おそらくその場合、高齢者の方は体重移動ができないことで歩きにくくなり、介助者にも余計な力が入ってしまっていることで、高齢者、介助者双方の身体的負担が増している状況になっています。

ここでは、「転倒させないように」ではなく、「本人が歩きやすいように」という意識を最優先に、歩行介助のコツやポイントを理学療法士が解説します。 本人が歩きやすいと感じれば、自ずと、介助者の力も最小限に抑えることができ身体的負担も軽減できます。 是非、歩行介助の基礎知識として参考にしてください。

歩行介助の立ち位置

歩行介助では、介助者の立ち位置は相手の状態によって変わります。ここでは、基本的な立ち位置を紹介します。


前方(手引き)介助

下の写真のように、前腕を支え、相手の肘を下から支えます。


歩行 介助 前方

お客様の表情がよく観察できる一方で、介助者は後ろ向きで歩くため、背後に十分な注意が必要となります。 また、下の写真のように、相手の上半身だけ前のめりになってしまい、前方へ転びやすい(膝をつきやすい)状況になります。


歩行 介助 前方

後方介助

脇の下、または腰を軽く支えながら介助を行います。


歩行 介助 後方 脇

相手が自ら足を振り出せる場合は、本人の自主性を活かせる後方介助をおすすめします。


 ⛔ ただし、下の写真のように背中全体を抱える介助は、介助の豊富な経験や高い介助技術がないと大きな転倒事故につながりやすいので、 自宅での歩行介助にはおすすめしません。


歩行 介助 後方 背中

側方介助

相手の足の左右どちらかに痛みや麻痺、変形、筋力低下などの不調がある場合によく行います。 介助者は不調がある側(患側)に立ち、相手の脇の下に手を入れ、もう一方の手で相手の手首を軽く支えます。


歩行 介助 側方

理学療法士が解説


左右の足が振り出しにくく、歩幅が小さくなってしまう場合には、上記の前方、または後方に立って介助を行うことがあります。 ただし、この疾患、この症状にはこの立ち位置、というのは決まっておらず、決めることもできません。 しっくりこない場合は、上記の3つの立ち位置で歩行介助を試みて、一番介助者が楽に感じる立ち位置を採用していただくことをおすすめします。 介助者が楽に感じれば、相手も楽に感じるからです。

【必見!】歩行介助を楽にする秘訣

人は歩く時に体重を左右に移動させながら歩きます。 右足を地面についたとき(左足を振り出すとき)には右方向に、左足を地面についたとき(右足を振り出すとき)には左方向に体重が移動するので、 下記の図の曲線のような軌跡をたどって移動していきます。


歩行 体重移動 軌跡

もし膝や股関節に痛みがあったり、筋力低下が生じていたり、麻痺が生じていたり、足に何らかの不調が生じている場合、この曲線の軌跡は乱れます。 例えば、脳卒中により身体の右側に片麻痺の症状がある場合、 麻痺により右足が振り出しにくくなっているので、左足が地面についている時は左側へ体重をより大きく移動する必要が出てきます。 そのため、体重移動の軌跡は左側が大きく外側へふくらむようなイメージになります。


歩行 介助 軌跡

このように、歩く際には、その人のもっている疾患や症状により体重移動の軌跡は少しずつ変わっています。 歩行介助の際に、この体重移動を邪魔するように介助をしてしまうとどうなるでしょうか。


【これで実感】体重移動の大切さ

① まず、壁に片側の足と肩をできるだけ近づけて立ちます


体重移動 重心 体験



② その状態で反対側の足を上げようとしてみてください。


体重移動 重心 体験



おそらく、足をあげることができない、または上げたとしてもすぐに床についてしまう、という状況になると思います。 つまり、壁があることにより壁側の足に体重を移動することができないため、反対側の足を持ち上げたくても持ち上げることができない、ということになります。
この状況は、歩行介助を行う際にしばしば起こり、下の写真のように介助者が相手の腕を抱えて密着しながら介助をすると、介助者が壁と同じような状態になるので、 相手は反対側の足を持ち上げようとしても上がらず、足を出せない状況になるのです。


歩行 介助 体重移動



体重移動を促す歩行介助とは

上記の通り、歩行介助で体重移動を促すことはとても重要ですが、実行に移すのは難しいと思う方が多いかもしれません。 そこで、体重移動を促すポイントをお伝えします。


  •  写真のように、相手と介助者は同じ足を振り出すこと (相手が右足を出そうとする場合は、介助者も右足を出す)


歩行 介助 体重移動

これは、前方からでも後方から介助した場合でも同じです。 慣れてきたら、相手が振り出すタイミングより僅かに介助者が先に足を振り出すとより相手は足が出しやすくなります。

様々な歩行介助でのポイントと注意点

歩行介助といっても、杖を使っている方、歩行器やシルバーカーを使っている方でポイントや注意点が変わります。 また平地と階段でも変わります。ここでは、様々な場面における歩行介助のポイントや注意点をお伝えします。


歩行器を使用した歩行介助の方法

歩行器での歩行介助は廊下などの床が平坦な場所を短距離移動する際に適しており、 上半身が前や左右に倒れてしまう人や足に負担がかかる人におすすめです。


  • ① 歩行器の高さを調整します。
  • まずはできるだけ上半身を起こした状態で、腕を下げ、その時に手首の高さにハンドルの位置がくるように調整します。


歩行器 高さ 設定



  • ② 介助者は、相手の「斜め後ろ」に立ちます。

歩行器 介助者 立ち位置



  • ③ 介助が必要な場合は、後方から相手の脇の下、または腰に軽く手を添えておきます。

歩行器 介助 脇



歩行器 介助 腰

シルバーカーを使用した歩行介助の方法

シルバーカーでの歩行介助は、屋外で長距離移動する際に適しており、 荷物を持って歩けない場合膝や腰に疲れや痛みを生じやすい人におすすめです。


  • ① へその位置から指2本くらい足方向へ移動した位置にハンドルがくるように高さを調整します。

シルバーカー 高さ 調整



  • ② ブレーキが使用者自身でかけられるか確認します。



  • ③ カゴから荷物の出し入れができるか確認します。



  • ④ 介助者は、相手の「斜め後ろ」に立ちます。

シルバーカー 介助者 立ち位置



  • ⑤ 介助が必要な場合は、後方から、相手の脇の下、または腰に軽く手を添えます。

シルバーカー 脇



シルバーカー 腰


  • ⑥ 下の写真のようにシルバーカーだけ前にいってしまい、上半身が前のめりにならないように声かけや介助を行います

シルバーカー 介助 前のめり

階段昇降の歩行介助方法

膝や腰に痛みがある方や下半身の筋力が低下している方に対して、手すりまたは杖を利用して階段昇降する際の介助方法です




 立ち位置 

① 階段を昇るときは、介助者は相手の斜め後ろ(階段の下側)に立ちます。


階段 昇降 介助者 立ち位置



② 階段を降りるときは、介助者は相手の斜め前(階段の下側)に立ちます。


階段 昇降 立ち位置



 介助の手順 

下記手順に沿って階段の昇り降りを介助します。(杖を使うことを想定)


昇るとき

① まずは杖を前方の段の上につきます


階段 上り 介助 手順



② 健足(杖と同じ側の足)を段の上に踏み出します。


階段 上り 介助



③ 最後に患足(杖と反対側の足)を1段上にもっていきます。




降りるとき

① まずは患足(杖と反対側の足)を下の段に出します。


階段 下り 手順 介助



② 杖を下の段に下ろします。


階段 下り 介助 手順



③最後に健足(杖と同じ側の足)を下の段に下ろします。




理学療法士が解説

お役立ちポイント!

童謡「通りゃんせ♪」の歌詞「行きは良い良い、帰りは怖い」を思い出してみてください。 行き(上り)は良い方の足(健足)から、帰り(下り)は怖い方の足(患足)から先に出して昇降する、と覚えておくと、 いざ階段に出くわした際に、落ち着いて安全に誘導・介助ができると思います。

【体の負担を軽減】歩行介助をもっと楽にする まとめ

歩行介助の技術は、高齢者の寝たきり予防、生活範囲の拡大・維持、尊厳の維持など、高齢者の方のQOLに大きく影響するものです。 だからといって、介助者が身体的負担を抱えながら無理に行うと、転倒を招いたり、介助者の身体を痛めてしまったりという悪い事象を引き起こしかねません。


そのようなことにならないためには、歩行介助の基本、ポイント、注意点を知ることが大切です。
初めて歩行介助をする方、または歩行介助をしているけど特に研修や指導を受けたことがないような方は、 ぜひ今回の記事を参考に、歩行介助が少しでも楽に行えるようになれば幸いです。


 記事監修 
  • 監修者写真
    林 悠太
    株式会社ツクイ
    理学療法士、社会福祉士
    介護支援専門員

     

  • 専門学校卒業後、株式会社ツクイ入社。従業員向けに機能訓練に関する教育研修に従事。 仕事の傍ら、筑波大学院にて修士課程を修了し、その後信州大学大学院の博士課程へ進学し、高齢者の重度化予防、要介護度の改善をテーマに研究活動にも取り組んでいる。
    現在は同業他社様ほか、一般市民向けや企業向けに介護予防や介助技術に関する研修・セミナーを多数担当している。