
© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
第95回(2023年)アカデミー賞作品賞に輝いた「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE」(略称エブエブ)は、全世界興行収入1億ドルを突破の大人気映画。 映画ファンが大注目するスタジオA24が手掛けたこの作品は、なんと、アカデミー賞最多10部門11ノミネートし、作品賞のほか、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞の7冠を達成と、主要部門を独占しました。
「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE」あらすじ
多くのトラブルを抱え、困窮して疲れ果てた主人公エヴリンの日常から物語は始まる。
中国からの移民エヴリンは、経営するコインランドリーに国税局の監査が入り、税金の申告をやり直さなければならならない。
故郷の中国からアメリカに来た父親は頑固なうえに介護が必要。
娘のジョイは反抗的な上に、恋人のベッキーの存在を受け入れられない母親に不満を持っている。
夫のウェイモンドは優しいが優柔不断で頼りにできない。
そんな中、国税庁で役人に絞られていると、突然夫が豹変。
別の宇宙から来たウェイモンドだと名乗る彼はエヴリンに「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのはエヴリンだけだ」と世界の運命を託される。
エヴリンは、夫に導かれマルチバースにジャンプ!想像もできない壮大な闘いに身を投じることに。

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【見どころチェック】マルチバースとアートと移民
見どころがありすぎて、どこに的を絞ればいいのかわからないほど多面的な映画です。 展開が早く、画面もコロコロと変わるので、一緒に最後まで楽しむためにも押さえておきたい情報も交えて、今回は3つに分けて見どころを解説します。

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誰もが考えてしまう「別の人生」マルチバース
この映画を理解する上で重要なのは、マルチバースという概念。
マルチバースは「多元宇宙」のことで、私たちの宇宙以外に観測できない別の宇宙が存在しているという考え方。
「もし、あの時、別な選択をしていれば、今と違う人生だったかも」という枝分かれしたような世界が別に存在しているという物理学的な仮説です。
エヴリンは劇中で別の人生を歩むカンフーマスターや歌姫、スーパーシェフになった自分にベースジャンプし、その能力をダウンロードして巨大な敵と戦うのです。
ただし、ベースジャンプするには「バカなこと」をしてショックを与えないと飛べないという、謎の設定があるのです。
登場人物はベースジャンプするために、次々にあり得ない行動に出るのですが・・・これが大爆笑!最高のコメディ映画に仕上がっています。

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ある意味アート作品です
映像の美しさ、面白さは、まるでアート作品を見ているような気分になります。
画面展開が早く、音や音楽に合わせて一瞬で切り替わる編集効果も重なり、最高にオシャレで楽しい映像が楽しめます。
衣装を担当したシャーリー・クラタ(日系アメリカ人、今回アカデミー賞にノミネートされました)のセンスは抜群で、アート作品の質をさらに高めています。
個人的には娘役のステファニー・スーのコロコロ変わる衣装に釘付けでした。

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移民の物語でもある
監督のダニエル・クワンは中国系アメリカ人で両親が移民一世で、その体験がベースにある映画です。
シンプルな見方をすると、アジア系アメリカ人の生活を、丁寧に描いている映画であることがわかります。
国税庁でエヴリンが詰め寄られるシーンでは、言葉が十分理解できないために話が噛み合わず、娘のジョイを通訳として来させる予定だったシーンがあります。
日本でも、日本語が十分理解できない外国人の親に、通訳として病院や職場に子供が学校を休んで付き添うことがあるそうです。
どの世界でも同じ悩みがあるのだと気づかされるシーンでした。
ときどき垣間見られる移民というテーマが、この映画をただのコメディにしていないリアルさを引き出しています。
そんなスパイスがピリッと効いていることも、エブエブが高く評価された一因です。

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カンフー映画がアカデミー賞受賞
本作は思いっきりカンフー映画です。
しかもSF映画で、コメディでもあるのです。
そして主要キャストがアジア人でアカデミー賞をかっさらうとは、すばらしい快挙です!
アカデミー賞って100年ぐらいの歴史があり、ヒューマンドラマでないと受賞できないと思い込んでいました。
大きな壁をぶち破った感のある「エブエブ」が映画の頂点に輝いたことで、多様性を受け入れる可能性がさらに広がったと実感します。
そして、今回のアカデミー賞でノミネートされたアジア人は過去最多。
いままでノミネートされた人の人数は約1800人以上ですが、アジア系は23人しかいなかったそうです。
アジア人初の主演女優賞を受賞したミッシェル・ヨーと助演男優賞のキー・ホイ・クァンの受賞スピーチにもご注目を。
「私のような見た目の男の子たち、女の子たち、見ていますか。 これは、みなさんの希望の証、夢は実現するという証です。 そして、女性のみなさん、誰にも“年を取りすぎた”なんて言わせない、諦めないで!」
「私の人生は移民のボートから始まったけど、ここまで辿り着きました。 諦めかけた時もあるけれど、妻にいつか自分の時代が来ると励まされ続けた。 映画だけのはなしではない、これはアメリカン・ドリームだ。夢は信じないと実現できない。皆さんも夢を諦めないで」
キー・ホイ・クァンは1984年「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」という映画で子役を演じた方です。 その後「グーニーズ」という映画で子役として活躍した以降、アジア系の男性役の仕事がなく、俳優を諦めていたそうです。 今回俳優に復活していきなりアカデミー賞をとるとは、なんとカッコいい展開。 アジア人の役はアジア人に、平等なチャンスを与えることが映画界では当たり前になってきたことがわかります。

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で、この映画で泣けるの?
もちろんです、泣けます。私は号泣しましたよ。
しかも、石に泣かされるとは思わなかった。
これは見てのお楽しみですが、石が出てくる印象的なシーンがあります。
そこから、母と娘の対話が始まるのですが、これが胸を打つ。
特に娘がいるお母さん達には、ぜひ観てもらいたい作品です。
子供が産まれたときは、とにかく愛おしくて可愛くて、生きて存在しているだけで満足と思っていたのが、成長するにつれ欲が出てくる。
時には「こうあるべきだ」と理想を押し付けて、親として間違ったことをしてしまう。
その関係を修復する、親子関係を取り戻すことを描いているので、世の中の「娘」を持つ母親は胸がいっぱいになってしまいます。

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心の目で感じる映画
タイトルの「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE」は、"なんでも、どこでも、いっぺんに"という意味。
いろんな世界がいっぺんに重なり、頭の中を整理する暇もなくぶっ飛んでしまう映画です。
「考えるな、感じろ!(ブルース・リー)」がこの映画の正しい観方かもしれません。
笑って泣いて、久しぶりに映画を楽しんだと思える作品です。
エンタメ要素満載、主軸となるテーマががっちりしており、奇想天外な展開や映像に、心から楽しむことができます。

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