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認知症の症状が改善するシンプルケア

認知症の高齢者が落ち着かないとき、どうすればいいでしょう。よくあるアドバイスが「気持ちに寄り添う」「なぜ落ち着かないのか理由を聞く」「否定しない」などですが、うまくいかないことも多いのではないでしょうか。

もちろん接し方や言葉のかけ方は大切ですが、その前に体調を整えることが認知症の症状改善には効果を発揮します。人間の「こころ」と「からだ」はつながっており、体調に問題があると精神的にも影響が出てきます。
 
 

『こころ』と『からだ』の関係

誰もが不安や恐怖を感じると冷や汗が出たり、心臓がバクバクしたりします。興奮して血圧が上がることや、緊張で胃がキリっと痛むこともあるでしょう。逆に風邪をひいていれば憂うつな気分になり、空腹すぎると怒りっぽくなったりします。

「こころ」が感じたことは「からだ」に影響し反応をもたらします。
「からだ」の変化はわかりやすいですが、目に見えない「こころ」とは実態がよくわかりません。「こころ」とはなんでしょうか?

『こころ』=『脳』

「こころ」といえばハートマークで示すように、昔は心臓と考えられていました。近年では脳科学研究が進んだことから、「こころ」は概念ではなく「脳」の機能であることが証明されてきています。

普段からだは自律神経系・免疫系・内分泌系を複雑に調整しながら、体調を良い状態で維持できるようバランスをとっています。例えば前述した不安感や恐怖で心拍が上昇する症状は、自律神経系のひとつ、交感神経の緊張状態が引き起こしたと説明できます。体力低下などで風邪をひくのは免疫系の低下が原因と考えられます。
「こころ=脳」と「からだ」は互いに影響しあっているので、認知症の方の落ち着かない言動に対しても、まずは体調に着目することが大切になります。

 

認知症の落ち着かない症状の原因は体調不良

認知症になると身の回りの管理が不十分になってきます。特に高齢者の体調を左右する「水分」や「食事」のバランスを崩しやすくなり、心身に影響を及ぼします。
 

4つのシンプルケアで認知症の症状改善

認知症で落ち着かない症状を改善するには「水分」「食事」「排便」「運動」のバランスを体のしくみとともに考えていくのが近道となります。普段の生活を見直し、整えるだけで本人や介護者がグッと楽になるのです。
逆に4つのバランスが崩れると認知症の悪化が加速し、介護で家庭が押しつぶされるような事態になってしまうのです。
 

【水分】不足から生じる落ち着かない症状とは

認知症を発症すると「水分」の管理ができないとは、どのような状況でしょう。

高齢者は感覚機能の低下から、喉の渇きを感じにくくなります。さらに認知症を発症していると、状況に対する判断力の低下から「暑いから水分を摂る」「脱水を防ぐために水分を摂る」などに意識が向かなくなります。
認知力の低下も伴い、朝から自分がどれくらいの水分を摂ったか認知できなくなることで、 水分を摂る必要性すら考えることが難しくなります。
※認知力…物事を認識する能力

水分が不足した状態は、脱水を引き起こします。脱水の初期症状は意識障害で「ぼんやり」したり「疲労感」を感じたり、ふらつきや転倒が増えることもあります。
さらに認知力が低下することから混乱が強まり、認知症であれば「イライラ」や「落ち着かない」状態になっていきます。それが徘徊や強い拒否、あるいは理由もなく怒り出すことや、不安感から何度も同じ言動を繰り返すような行動へ発展していきます。
 

落ち着かない症状

 

水分不足は【食事】にも影響を及ぼす

からだの水分が不足した状態は、食べる量も低下させてしまいます。意識が「ぼんやり」することで、食べようという意欲がなくなり、食事に興味を示さないこともあるでしょう。
唾液の分泌が少なくなり、むせることも増えてきます。さらに噛む力が弱くなり、飲み込みにくくなることで食事を嫌がるかもしれません。「美味しい」という感覚も鈍くなり、食事を楽しむことができなくなります。

認知症であれば、このような危機を予測して管理することはできません。介護を行う家族でも水分の重要さを認識していなければ、食事への影響にも気付かなくなります。
 

食事への影響

 

水分・食事の不足が【排便】や【運動】へ影響する

便秘

便には適度に水分が含まれますが、その水分が不足すると硬い便となります。食事量が低下することで食物繊維やビフィズス菌、乳酸菌なども足りなくなり、腸内環境の悪化から深刻な便秘症状を引き起こします。
認知症高齢者にとって便秘は最大の敵で、常に不快感を伴います。自律神経にも影響を及ぼし、交感神経が優位になることで落ち着かない状態が絶え間なく続きます。徘徊やイライラ、強い拒否などの落ち着かない症状がある場合は、便秘を起こしている可能性があります。

だったら薬で解決すればいいじゃないか!と思われがちですが、これもあまり良い方法ではありません。そもそも水分や食事に問題があるのに、そこを解決せずに下剤を服用することになります。体内のバランスがさらに崩れて下痢と便秘を繰り返すなどの悪循環につながります。
 
便秘への影響
 

運動

水分不足は「疲れ」や「からだのだるさ」にも直結することから、活動量を低下させます。認知症であれば、運動や外出を嫌がるようになり、時には入浴や着替えなどにも拒否を示すようになります。
食事量が減ることで、必要なカロリーも不足していきます。からだを動かす原動力であるエネルギーが不足するということです。ガソリンを入れないと車が走らないのと同様、人間のからだもしっかりとカロリーを摂取しないと活動できなくなります。
 

【水分・食事・排便・運動】相互に関係している

これまでの説明で「水分・食事・便秘・運動」は相互に作用・影響すると気づかれた方も多いのではないでしょうか。
水分が不足すれば食事に影響し、食事の不足は便秘を起こします。水分や食事不足は運動に影響を及ぼし、動かなくなることで便秘も起こしやすくなります。活動性が低くなると食欲もわかず、さらなる食事量の低下につながります。
4つのケアは連鎖
 

認知症を改善できるケア

「水分・食事・排便・運動」のバランスが崩れると認知症高齢者は「こころ=脳」が混乱し、落ち着かない状態となります。逆にいえば、「水分・食事・排便・運動」をしっかりと整えることは、混乱した状態を落ち着かせる効果があるということです。体調を整えるということは、認知症を改善すると捉えることもでき、家庭でできる簡単なケアなのです。
 

認知症の症状が改善するシンプルケア  まとめ

このシリーズでは「家庭でできる認知症改善のススメ」として家族ができる認知症ケアの手法を簡単にわかりやすく紹介していきます。

基本となるのは「水分・食事・便秘・運動」のケア方法で、この基本ケアは多くの介護施設でも取り入れられています。その結果、特別養護老人ホームでは「おむつゼロ」を達成する施設が増えており、そのプロセスは4つの基本ケアを軸にしています。
 
話を聞く女子
 
認知症の症状を落ち着かせることができる「水分・食事・排便・運動」のケアを家庭で実践し、安心した在宅介護を行えるようにしていきましょう。この手法は認知症予防にも効果があるので、元気なうちから意識していくと良いでしょう。
 記事監修 
  • 監修者写真
    若橋 綾
    株式会社DIGITALLIFE
    WEBサービス事業
    介護支援専門員

     

  • 介護支援専門員や介護事業所の管理者として10年以上の現場経験があり、家族問題を抱える家族や虐待案件も含め様々なケースを担当。
    現在は介護現場で培った経験を活かし、企業向けに介護離職予防を目的としたセミナーの開催や介護に関する記事作成を行うなど活躍は多岐にわたっている。