
「最近、食欲がなくなってきた」「食事の量が減った気がする」――そんな声をシニア世代やそのご家族からよく耳にします。
年齢を重ねると、食欲が落ちることは自然な変化のひとつです。けれども、そのままにしておくと、栄養不足や筋力の低下、体力の衰えなどを招き、結果として健康寿命を縮めてしまうことがあります。
特に介護が始まるきっかけのひとつが「食べられなくなること」と言われるほど、食事の変化は見逃せないサインです。
本記事では、シニアに多い食欲不振の原因やリスク、家庭でできる工夫、そして無理なく続けられる栄養補助食品の取り入れ方について、わかりやすく解説します。
シニアの食欲不振とは?

食欲不振とは「以前より食べたいと思わなくなる、または食べる量が明らかに減っている状態」を指します。一時的な体調不良によるものと、慢性的に続くものがあり、後者は特に注意が必要です。
高齢期の食欲不振は「仕方のない老化現象」と思われがちですが、実際には身体や心の不調を知らせるサインであることが少なくありません。
たとえば、消化機能の低下やうつ傾向、服薬の影響など、原因を見つけて対処することで改善できるケースも多いのです。
食欲不振の主おもな原因
食欲不振を引き起こす要因は、いくつかの面が重なって起こることが多く、「身体的」「食生活」「心理・環境」などに分けて考えると整理しやすいでしょう。
ご家族の様子を思い浮かべながら、どれが当てはまりそうかチェックしてみてください。

- 味覚・嗅覚の低下:味や香りを感じにくくなる
- 噛む力・飲み込む力の低下:歯や口腔機能の衰え
- 胃腸機能の低下:消化が遅れ、食後のもたれ感が強い
- 薬の副作用:降圧薬や抗生物質などが食欲低下を引き起こす
身体的要因
- 孤食:一人で食べることで食事の楽しみが減る
- 食事の単調さ:同じ献立が続くことで飽きる
食生活要因
- 暑さや寒さ:季節の影響で食欲が落ちやすい
- うつや不安感:気分の落ち込みから食欲が減退
生活環境・心理的要因
食欲不振が続くと起こるリスク

「最近あまり食べていないけれど、体調は悪くなさそう」と思っていても、食欲の低下が続くこと自体がリスクになる場合があります。
体に必要なエネルギーや栄養が足りない状態が続くと、知らないうちに筋肉量が減り、体力や免疫力が落ちてしまうことも。
さらに、筋力や活動量の低下は「フレイル(虚弱)」の入り口とも言われています。フレイルが進行すると転倒や寝たきりのリスクが高まり、介護が必要な状態へつながることもあります。
早い段階で気づき、対策を取ることが、元気に暮らし続けるための第一歩です。
- 低栄養・体重減少:必要なエネルギーが不足
- 筋力低下・サルコペニア:歩行や日常動作に影響
- フレイルの進行:生活全般の活動性が落ちる
- 免疫力の低下:感染症や肺炎にかかりやすくなる
- 認知機能や意欲の低下:生活の質に大きく影響
食欲を取り戻す工夫(家庭でできる対策)

食欲不振の改善には、「無理せず、少しずつ」続けることが大切です。
毎日の食事や生活のなかで少し意識を変えるだけでも、体は少しずつ応えてくれます。ここでは、家庭でできる簡単な工夫をご紹介します。
食事の工夫
食事は「体をつくるための栄養補給」であると同時に、生きる楽しみのひとつでもあります。
だからこそ、食欲が落ちたときは「食べることを少しでも楽しめる工夫」を取り入れることがポイントです。
特別な献立を用意しなくても、「今ある食事を少し工夫する」ことから始めるのが長続きのコツです。
介護をされているご家族も一緒に食卓を囲み、会話を楽しみながら食事をとることで、心の面からも食欲が戻りやすくなります。
- 量を小分けにして回数を増やす(1日3食+間食)
- 彩りや香りを活かす(レモンやハーブ、香辛料などで風味をプラス)
- 柔らかく、食べやすい形に調理する
- 卵・魚・大豆製品など高タンパク食材を意識する
栄養補助食品の活用
「食事だけで必要な栄養をとるのは難しい」「作っても食べきれない」と感じる場合には、栄養補助食品を上手に取り入れるのもおすすめです。
最近では、味や食感の工夫がされた商品も多く、「おいしく栄養を補う」ことができます。
ドリンクタイプのほか、ゼリーやプリン、スープのように手軽に食べられるものもあり、食欲が落ちているときや調理が負担なときにも役立ちます。
ただし、糖尿病や腎臓病などの持病がある場合は、成分を確認したうえで医師や栄養士に相談することが安心です。
- 高カロリー・高タンパクのドリンク
- ゼリーやプリンタイプの栄養補給食
- プロテインや流動食タイプ
食環境の工夫
- 家族や友人と一緒に食卓を囲む
- 器や盛り付けで食欲を刺激する
- 季節の食材を取り入れて食事を楽しむ
生活習慣の工夫
- 軽い運動(散歩・ストレッチ)で代謝を上げる
- 規則正しい生活リズムを整える
- 日光浴をして体内リズムを調整する
食事は、栄養をとるだけでなく「楽しみ」でもあります。たとえば、家族や友人と一緒に食卓を囲むだけで、自然と食欲が湧いてくることも少なくありません。
器や盛り付けを工夫したり、季節の食材を取り入れるなど、目や香りからの刺激も大切です。
また、軽い運動や日光浴は体のリズムを整え、自然な食欲を促す効果があります。規則正しい生活とちょっとした体の動きが、食事の楽しみを取り戻すサポートになります。